遺産分割協議でお悩みではありませんか。
あなたのご両親が亡くなり葬儀等が落ち着いた頃に遺産分割協議の問題が生じます。遺産分割協議は、相続財産をどのように分けるかの話し合いです。しかし、遺産分割協議をスムーズに進めるのは大変です。あなたも遺産分割協議の進め方を悩んでおられると思います。
この記事では、遺産分割協議を進めるために知っておくべき知識をまとめました。相続問題に強い弁護士が実務的な観点から遺産分割協議の法律相談でよく聞かれることを中心にまとめました。この記事を読めば遺産分割協議の全知識を習得できます。少し長いですが、最後までお読みください。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
目次
遺産分割協議とは
遺産相続とは、被相続人(ご両親等)が亡くなり、被相続人が持っていた遺産(相続財産)をあなたやご兄弟のような相続人が承継することです。
しかし、遺産(相続財産)を観念的に承継するだけでは意味がありません。たとえば、誰が預貯金を取得し、誰が不動産を取得するのか等の具体的な分配を決めるのが遺産分割協議です。なお、遺産相続と遺産分割の違いについては下記記事をご覧ください。
(参考)遺産分割と遺産相続の違いとは
どんな遺産分割の手続きがあるか?
遺産分割の手続きには、遺産分割協議以外に遺言による遺産分割や裁判所における遺産分割があります。遺産分割協議は遺産分割手続きの1つだといえます。
遺言による遺産分割
遺言書が作成されている場合、原則として、遺言書に沿って遺産分割を行うことになります。遺言書があるのに遺産分割協議を行っても意味がありません。そのため、相続が開始したら最初に遺言書があるかを探す必要があります。
当事者間の話し合いによる遺産分割
遺言書がない場合、まずは当事者間でどのように遺産分割を行うか話し合うことになります。
これが遺産分割協議です。「遺産分割」について、相続人同士で「協議」するから「遺産分割協議」といいます。遺産分割協議においては、どんな遺産が存在するかを確認し、具体的に誰がどの遺産を相続するかを決めます。
遺産分割協議の内容について相続人全員が納得すれば遺産分割協議書を作成します。
裁判所における遺産分割
遺産分割協議が相続人間でまとまらない場合、裁判所において遺産分割の手続きを行います。裁判所では、最終的にどのように遺産を分割するべきかを決めたり(遺産分割調停・遺産分割審判)、あなたのご両親の遺産の金額を決めたり(遺産確認の訴え)してくれます。
裁判所における遺産分割は、まず最初に遺産分割調停の申立てをすることが多いです。遺産分割調停の進め方は以下の記事を参考にしてください。
(参考)遺産分割調停の有利な進め方:調停委員を味方につけるためのコツや段階的進行モデルを弁護士が解説
不動産や株式の遺産分割方法
遺産(相続財産)に不動産や株式があるときは、遺産分割の方法が問題になります。遺産分割の方法とは、遺産をどのように分けるかを決めるものです。
たとえば、建物を物理的に切り分けて相続することはできません。したがって、建物を相続人で共有する、建物を売却して売却代金を相続人で分ける、建物を相続人の誰かが取得し他の相続人にお金を支払う等のように遺産の分け方を工夫する必要があります。
遺産分割の方法については下記記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
(参考)遺産分割の方法-主要3種類の方法と注意点を相続弁護士が解説
遺産分割協議の具体的な流れ
遺産分割協議の具体的な流れを解説します。遺産分割協議の進め方や注意点をしっかり押さえておいて下さい。
STEP①:遺言書の確認
遺産分割協議の出発点は遺言書の有無を確認することです。遺産分割手続きで述べたとおり、遺言書がある場合は原則として遺言通りに遺産分割を行います。
したがって、遺言書があるのに遺産分割協議をしても意味がないため、一番最初に遺言書があるかを確認します。
しかし、遺産分割協議のために遺言を確認しようと思っても、遺言書が内緒で作成されている場合もあります。そこで、遺言書の有無を確認する方法が問題になります。
遺言書が公正証書遺言で作られている場合には公証役場に記録があるので、まずは公証役場に問合せをします。
公証役場に遺言書がなかった場合は残念ながら片っ端から探すしかありません。遺言所の保管場所は、書斎の引出し、仏壇の付近、弁護士・司法書士、銀行や信託銀行にあることが多いです。遺言書の探し方は下記記事をご覧ください。
(参考)【最新版】遺言書の探し方を解説:2020年7月スタートの自筆証書遺言保管制度等の最新情報
STEP②:相続人全員による協議
遺言書がない場合、遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議の注意点は、遺産分割協議は相続人全員で行う必要があることです。もし、遺産分割協議に相続人が1人でも参加していなかった場合、遺産分割協議は無効となります。
そのため、遺産分割協議の前提として相続人をしっかり調査する必要があります。あなたが知らないだけで、ご両親の前の配偶者との間に子どもがいるという事例はよくあります。また、相続人が存在していることは知っていても所在が分からないという事例も多いです。このような場合、存在を知らなかった又はどこに居るか分からないとしても、きちんと相続人全員で遺産分割協議をまとめなければなりません。
遺産分割協議の前提として相続人を確定するには、あなたのご両親(被相続人)が生まれてから亡くなるまでの戸籍等を取り寄せることがスタートとなります。場合によっては、被相続人の両親やご兄弟の分まで戸籍等を取り寄せることがあります。
所在不明の相続人がいる場合、弁護士であれば他人の住民票も取得できますので、当該相続人の住民票を確認して所在を確認します。それでも分からない場合は失踪宣告や不在者財産管理人の利用も検討することになります。
(参考)相続調査とは?相続人調査と相続財産調査に分けて何を行うかやメリットを相続弁護士が解説
STEP③:相続財産の調査
遺産分割協議で次にポイントとなるのが相続財産の調査です。
たとえば、あなたは両親の所有財産を完全には把握しておられないと思います。つまり、相続人は遺産(相続財産)を全て知っているとは限らないのです。
主な相続財産は、預貯金、不動産、株式・有価証券等があります。遺産分割協議を行うためにどのような相続財産があるか調べなければなりません。
また、遺産分割協議を行う中で相続財産の範囲が争われることもあります。とくに、あなたのご兄弟がご両親と同居しており、あなたがご両親と別居しているような場合、あなたのご両親が亡くなった後にご両親の預貯金の使い込みが疑われるケースがあります。
遺産分割協議を行うための相続財産の調査は、どのような相続財産が存在するのか、法的に相続財産として認められる範囲はどこまでか、相続財産の調査結果を遺産分割協議においてどのように活用するべきかを考えて行います。相続財産の調査は法的知識や事実関係を踏まえて行う必要があります。もし自分で相続財産調査を行うのが難しく、弁護士に依頼する場合は下記記事を参考にしてください。
(参考)相続財産調査費用の相場と弁護士に依頼する3つのメリット
STEP④:債務・負債の調査
また、遺産分割協議において意外と見落としがちなのが債務・負債の調査です。あなたのご両親が債務・負債を抱えていた場合、その債務・負債を相続してしまうことになります。相続は、積極財産のみではなく、マイナスの財産も承継してしまいます。
債務・負債は遺産分割協議の対象とならないと言われています。しかし、これは当事者間で遺産分割協議を行うまでもなく、債務・負債は当然に分割承継されるという意味です。相続されないという意味ではないのでご注意下さい。予めあなたのご両親(被相続人)の債務・負債の金額がプラスの財産を上回るようであれば、限定承認や相続放棄を利用することも考えられます。
(参考)借金の相続で大損しないために知らなかった借金の調べ方や相続放棄の注意点などを解説
最高裁昭和34年6月19日判決
「債務者が死亡し、相続人が数人ある場合…被相続人の金銭債務その他の可分債務は、法律上当然分割され、各共同相続人がその相続分に応じてこれを承継する」
STEP⑤:遺産目録の作成
相続調査が終わると遺産の一覧表(=遺産目録)を作成します。遺産目録があれば、どのような遺産があるかすぐに分かりますので、遺産分割協議をスムーズに進めることができます。
遺産分割協議のための遺産目録作成時の注意点は、どのような遺産があるかだけではなく、その遺産がどの程度の金額かまで記載しておくことです。
遺産分割協議のいて、とくに問題となりやすいのは不動産です。不動産は、相続人全員で遺産分割協議時点の時価を決めておくことも考えられます。
遺産分割協議における遺産の評価額は、原則として遺産分割の時点で遺産を評価しますが、特別受益や寄与分については相続開始時を基準とすると解されています。
札幌高裁昭和39年11月21日決定
「遺産分割のための相続財産評価は分割の時を標準としてなされるべきものである」
(最高裁昭和51年3月18日判決)
「いわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものと解するのが、相当である。」
STEP⑥:具体的に遺産分割協議を行う
遺産目録において遺産及びその額が決まったら、どのように遺産を分けるかについて話し合うことになります(=遺産分割協議)。
遺産分割協議のポイントは、相続人全員が同意できれば、どのように遺産を分割するかは自由ということです。
遺産分割協議を行う場合は、遺産分割調停と同じく段階的進行モデルに沿って進めることが考えられます。段階的進行モデルは下記記事を参考にしてください。
(参考)遺産分割調停の進め方:段階的進行モデルとは
STEP⑦:遺産分割協議書の作成
遺産分割協議によって相続人全員が遺産の分配方法に同意したら、遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書を作成するのは、一度同意した内容について後から言った言わないの紛争を避けるため、さらに遺産である不動産・預貯金の名義変更時に使うためです。
そのため、土地・建物の不動産については登記事項証明書を取得して登記事項証明書記載のとおり正確に記載することがポイントとなります。また、相続人全員の署名・実印での押印も忘れないようにしましょう。
遺産分割協議書は正確に記載する必要があります。相続人全員に分かれば十分というわけではありません。なぜなら、遺産分割協議書に基づいて、銀行・法務局等に対して遺産(相続財産)の名義変更を行う必要があるからです。したがって、銀行・法務局等が認めるような正確な遺産分割協議書でないと意味がありません。遺産分割協議書が不正確だと、遺産(相続財産)が取得できないトラブルが生じる場合もあるのでご注意ください。
遺産分割協議自体は相続人同士で話し合っても、遺産分割協議書の作成は弁護士に依頼することをおすすめします。
遺産分割協議がまとまらない場合
「遺産分割協議の流れ」について解説しましたが、遺産分割協議がまとまらない場合もあります。遺産分割協議がまとまらない原因やその対応策については下記記事にまとめてあるのでご覧ください。
(参考)遺産分割協議がまとまらないときの対処法:話し合いの工夫、法的手続き、相続税申告の延長手続きまで徹底解説
色々と工夫をしても遺産分割協議が相続人間でまとまらない場合は、やむを得ず調停や訴訟等の裁判所で遺産分割手続きをすることになります。遺産分割協議がまとまらない理由に応じて、遺産分割のためにどの手続きを利用することになるかを簡単にまとめます。
遺言書の効力に疑問がある:遺言無効確認訴訟
遺言書が被相続人の意思に基づいて作成されたものではない又は遺言作成時点に被相続人は認知症等であり遺言書作成能力がなかった場合は、遺言無効確認訴訟を提起することになります。
とくに、遺言書の形式に不備がある、遺言書が偽造された、見当識、記憶力、認知能力、知能から遺言能力に疑問がある、遺言内容が愛人への贈与等で公序良俗に反する等が問題となりやすいと言えます。
遺言の内容が不公平だ:遺留分減殺(侵害額)請求
遺言書の内容が、ご兄弟に遺産の全部を譲る等のあなたに不公平なものである場合は遺留分減殺(侵害額)請求を行うことが考えられます。
遺留分減殺(侵害額)請求は、相続時に法律上取得することを保障されている相続財産を取得することです。遺留分減殺(侵害額)請求を行うためには、遺留分減殺(侵害額)請求訴訟を提起するのですが、実務上はまず遺留分減殺(侵害額)請求調停を行うことになります。
遺留分減殺(侵害額)請求を成功させるためのポイントは、『遺留分侵害額(減殺)請求に応じないときのたった1つのポイント:拒否する根拠や成功させる方法も解説』を参考にして下さい。
遺留分減殺(侵害額)請求については無料で法律相談を行っております。まずは、一度弁護士にご相談ください。
(参考)遺留分侵害額請求に強い弁護士に無料で法律相談するなら
従前は遺留分減殺請求と呼ばれていましたが、相続法改正により遺留分侵害額請求になりました。
遺産の範囲に争いがある:遺産確認の訴え
遺産分割の方法は、家庭裁判所が遺産分割審判において審理判断することはできます。しかし、遺産の範囲については遺産確認の訴えという訴訟手続きで解決することになります。
たとえば、あなたのご両親があなたのご兄弟名義で預貯金を残しておいた場合、その預貯金が相続財産に含まれるか否かが争いになることがあります。
預金の使い込みが疑われる:不当利得返還請求訴訟
被相続人と同居していた相続人が無断で銀行預金を引き出す場合があります。たとえば、ご両親と同居していたご兄弟にこのような疑いがある場合、不当利得返還請求訴訟を提起することになります。
相続人が無断で銀行預金を使い込んだ場合、被相続人は相続人に対して返還を求めることができます(=不当利得返還請求権)。この不当利得返還請求権を相続によってあなたが取得することになるので、あなたが不当利得返還請求訴訟を起こすことができるのです。
不当利得返還請求権は一定期間が経過すると時効消滅しますが、預金の使い込みは期間にわたって継続的に行われることが多いです。遺産分割協議が長引いて時間が経つと使込まれた預金の返還請求権が時効消滅することがあります。従って、遺産分割協議において預金の使い込みが疑われる場合は迅速に訴訟提起をすることが重要です。
上記にあてはまらない場合:遺産分割調停・遺産分割審判
遺産分割協議がまとまらない理由が上記のどれにもあてはまらない場合は遺産分割調停・遺産分割審判を行うことになります。
遺産分割調停は、家庭裁判所において調停委員という第三者を交えての話し合いです。あくまで話し合いですから、相続人全員が遺産分割について同意しないと遺産分割調停は成立しません。
遺産分割審判は、遺産分割調停を行って相続人全員が遺産分割について同意しないときに家庭裁判所が遺産分割を決定してくれるものです。
(参考)遺産分割の手続きで損をしないための進め方と知っておくべきポイント
遺産分割協議がすんなりまとまらない場合は早めに弁護士に法律相談することをおすすめします。
遺産分割協議に期限はありませんが、相続放棄・限定承認の手続きや相続税申告との関係で、一定期間内に方針を決める必要があります。また、遺産分割協議がまとまらない場合で、遺産(相続財産)を他の相続人が管理しているときは、あなたが積極的に動かないと遺産(相続財産)の分配を受けることができません。
遺産分割を長年放置しておくと、その間に遺産を使いこまれたり、こちらに有利な証拠が隠されたりするケースもあります。遺産分割協議がまとまらないため、弁護士に依頼して手続きを進めたいと思ったときは、すぐに弁護士に相談してください。
遺産分割協議に問題がある場合
遺産分割協議に問題がある場合、一度成立した遺産分割協議がどうなるかが問題となります。
遺産分割協議のやり直し
そもそも遺産分割協議をやり直すことができるのでしょうか。この点については、相続人全員が遺産分割協議を合意解除し、改めて遺産分割協議をすることができるとされています。遺産分割協議をやり直すためには相続人全員の同意が必要ということです。
(最高裁平成2年9月27日判決)
「共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、…遺産分割協議の修正も、…共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解される」
遺産でない財産が含まれていた又は遺産が漏れていた場合
遺産分割協議が成立したが、遺産でない財産が含まれていた又は遺産が漏れていた場合についてどのように取り扱われるのでしょうか。
まず、遺産でない財産が含まれていた場合、その遺産が存在したために遺産分割協議に同意していたと言えるような場合、遺産分割協議全体について錯誤無効の主張を行うことが考えられます。
他方で、遺産分割協議後に新たな遺産が発見された場合は原則として追加的に遺産分割協議を行えば足りると解されます。ただし、遺産分割全体について再度遺産分割協議を必要とするほどの重要な遺産が漏れていた場合は、遺産分割協議を無効と主張する余地があります。
相続人でない者が遺産分割協議に加わっていた場合
遺産分割協議は相続人全員の同意がないと有効に成立しないため、相続人の一部を除外した遺産分割協議は無効です。それでは、相続人でない者が遺産分割協議に加わっていた場合はどうでしょうか。
この点は、遺産が漏れていた場合と同様に、相続人でない者が取得した財産について追加的に遺産分割協議をすることになります。
とくに親族関係の結びつきが強い地方等では相続人でない親族が遺産分割協議に口出しをすることがあります。このような場合、遺産分割協議がまとまりにくくなり、遺産分割と関係のない事情が持ち出されてトラブルが生じやすくなります。遺産分割協議を行う場合は、無関係な親族は参加させないようにしましょう。
未成年の子どもがいる場合
たとえば、ご主人が亡くなって、妻であるあなたと未成年の子どもが相続人であるケースです。あなたは、未成年の子どもの親権者ですが、子どもの代理人として遺産分割協議を行うと利益相反となるため遺産分割協議の効力は子どもに及ばないのが原則です。
また、未成年の子どもが複数いる場合、あなたが親権者として子ども全員を代理しても、遺産分割協議の効力は子どもに及ばないのが原則です。
このような場合、家庭裁判所に対して特別代理人を選任して、特別代理人が子どもを代理して遺産分割協議を行う必要があります。未成年の子どもが居る場合の遺産分割協議は将来的に揉める可能性が高いので弁護士に依頼することをおすすめします。
遺産分割協議のよくある質問
最後に遺産分割協議に関してよくある質問をまとめておきます。
遺産分割協議の期限:いつまでに遺産分割協議をするべき?
法律上は遺産分割協議の期限は決まっていません。
遺産分割協議の期限は原則として決まっていません。しかし、遺産分割協議は早めに行うべきです。具体的には10か月~1年以内には遺産分割協議を行って遺産分割を完了させることが望ましいです。これは下記のような考慮があるからです。
相続税がかかる場合:10か月以内を目安とする
相続税は、ご両親が亡くなったことを知ってから10か月以内に納付しなければなりません。また、遺産分割協議が成立していると税額優遇措置を受けられます。そのため、10か月以内に遺産分割協議をまとめるべきです。
遺言がある場合:1年以内を目安とする
遺言がある場合、あなたに不利な内容かもしれません。遺言によってあなたが不利に取り扱われた場合は遺留分減殺請求を行うことができます。
しかし、遺留分減殺請求はご両親が亡くなったことや遺言で不利に取り扱われることを知った時から1年以内に行わなければなりません。そのため、遺言がある場合は1年以内に遺産分割をどう行うか、遺留分減殺請求を行うかを決めなければなりません。
なお、相続関係の期限については下記記事で網羅的にまとめてあります。既に相続が開始しているような場合、いつまでに何をやるべきかを把握しておく必要があります。是非、一度は下記記事を読むことをおすすめします。
(参考)相続の期限一覧:流れに沿って相続の全手続きを弁護士が解説
相続開始から3か月以内であれば限定承認・相続放棄ができます。相続財産に借金(債務・負債)があるときは、何かしらの対応をしないと被相続人の借金(債務・負債)を相続することになるのです。したがって、相続開始を知ってから3か月が経過する前に一度弁護士に相談することを強くおすすめします。
遺産分割協議書の作成は弁護士に依頼するべき?
遺産分割協議書の作成は弁護士に依頼すべきです。
遺産分割協議書を作成するのは、単に相続人全員で決めたことを確認するという意味だけではありません。遺産分割協議書作成が必要ないという意見は実務を知らないと言わざるを得ません。遺産分割協議書は、遺産である預貯金の名義変更や、土地建物等の不動産の登記申請に必要です。
したがって、名義変更・登記手続きに利用できる遺産分割協議書を作成する必要があります。もし、遺産分割協議書に不備があり、あなたが取得することになった預貯金の名義変更や不動産の登記手続きができない場合、再度遺産分割協議書を作成しなければなりません。しかし、改めて遺産分割協議書作成のために、相続人全員に署名・押印を求めるのは手間ですし、既に自分の相続財産の名義変更を終えた相続人がごねることもあります。
遺産分割協議自体は当事者で行ったとしても、遺産分割協議書作成は専門家に依頼するべきです。
連絡の取れない相続人がいる場合はどうすれば良い?
相続調査を行って対応をする必要があります。
遺産分割協議は相続人全員が同意しなければ無効です。相続人と連絡が取れないからと言って、その相続人を抜きに遺産分割協議をしても意味がありません。
そこで、相続人の中に連絡が取れない方がいる場合の遺産分割協議の対応方法が問題になります。
遺産分割協議をしようと思ったが相続人の所在が分からないという相談は非常に多いです。このような場合、弁護士が相続調査案件として受任して、職務上請求という弁護士が使える調査方法で相続人の所在地を調査することが可能です。相続調査案件については、『相続調査のメリット3つ・相続弁護士が解説』もご参考下さい。
それでも所在が分からない場合、行方不明の期間が7年以上の場合は失踪宣告、7年未満の場合は不在者財産管理人の選任によって遺産分割協議を行うことができます。
借金・負債の額が分からないが、相続するべき?
限定承認・相続放棄を検討してください。
相続においてはプラスの相続財産のみではなく、借金・負債(=マイナスの相続財産)も承継することになります。そこで、借金・負債が相続財産を上回る場合には、相続開始を知ってから3か月以内に限定承認・相続放棄をすることが考えられます。
また、借金・負債があるが、その金額が分からない場合は借金・負債の調査を行う必要があります。もし、調査の時間がない場合は限定承認・相続放棄をする期間を3か月から延長することができます。
調査を行っても借金・負債の額が分からない場合はとりあえず限定承認を行うことになります。
相続開始時に遺産(相続財産)を借金が上回る不安がある場合、すぐに弁護士にご相談ください。借金(債務・負債)を相続すると取り返しがつかない大損をする可能性があります。相続開始から3か月以内であれば、とりあえず相続承認・放棄期間延長の申立てにより時間を稼ぐことができます。
他の兄弟は不動産や現金を生前に贈与されていたが不公平ではないか?
特別受益という制度があります。
あなたのご両親が生前他の兄弟に不動産や現金を贈与する等の援助を行っていたにもかかわらず、あなたは生前は財産を受け取っていないと遺産分割協議において不公平を感じるかもしれません。
このような場合、遺産分割協議において特別受益を考慮します。特別受益とは、結婚費用や生活資金等を生前に贈与を受けた場合、その財産の価額を相続財産とみなして、その財産を相続財産から取得したと考えて遺産分割を行うものです。
特別受益については下記記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
(参考)特別受益とは何か?特別受益があるときの遺産分割の割合や遺留分の計算方法について相続法改正を踏まえて解説
自分はご両親の面倒を看てきたので多く遺産を貰えないか?
寄与分の主張をすることが考えられます。
また、あなたが生前にご両親の面倒を看ていたような場合、遠方に住んでいる等を理由として、ご両親の世話をしなかった他の兄弟と同じ遺産分配では納得できないかもしれません。
このような場合、遺産分割協議において寄与分を考慮します。寄与分は、被相続人に対して財産や労働力を提供したり又は療養看護に努めた等によって相続財産の維持・増加を行った相続人は遺産分割で多くの遺産分配を受けられる制度です。
(参考)寄与分とは?計算方法・認められる具体例や相続法改正による特別寄与料制度まで22のポイントを徹底解説
あなたがご両親の面倒を看ていたのでなく、あなたの奥様がご両親の面倒を看ていたような場合、あなたの奥様が遺産の一部を貰える特別寄与料制度が相続法改正によりできました。相続人以外の親族であっても、被相続人の介護・財産管理に貢献していたような場合は特別寄与料制度の利用もご検討ください。
内縁の妻にも遺産を相続させるべき?
内縁相手は相続に関して権利を持っていません。
あなたのご両親に婚姻関係にない後妻(内縁相手)がいたような場合の遺産分割協議はどうでしょうか。相続問題においては内縁相手は基本的に相続人とはなりません。従って、内縁相手に対しては遺産を分配する必要はないので遺産分割協議を行わなくて良いが原則です。
ただし、あなたのご両親が遺言書を残していたような場合は内縁相手も遺産を分配することが可能となります。しかし、この場合でも配偶者がいるにもかかわらず、内縁相手にいたような場合は内縁相手に対して遺産を分ける旨の遺言書は公序良俗に反して無効とされる場合があります。
東京地裁昭和58年7月20日判決
不倫相手に遺贈をしたことは、「妻の立場を全く無視するものであるし、また、その生活の基盤をも脅やかすものであつて、不倫な関係にある者に対する財産的利益の供与としては、社会通念上著しく相当性を欠くものといわざるを得ない。したがつて、…遺贈は、公序良俗に反し無効というべきである。」
遺言書を無視した遺産分割協議はできるのか?
理論上は遺産分割協議はできません。
最後は遺言書と遺産分割協議の関係です。遺言書と異なる遺産分割協議は難しい問題ですが、理論的には遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行うことはできません。
これは、遺産分割協議は相続によって遺産が共有された状態を解消するものであるところ、遺言書がある場合は遺産の共有状態が生じないとされるためです。
実務上、遺言書の内容と異なる遺産分割協議がされますが、これは相続人間で遺産を贈与した又は交換したと解されます。
東京地裁平成13年6月28日判決
「本件遺産分割協議は、…本件遺言によって取得した取得分を相続人間で贈与ないし交換的に譲渡する旨の合意をしたものと解するのが相当」
遺産分割協議について損をしないために
いかがでしょうか。この記事では遺産分割協議をスムーズに進めるために知っておきたい知識をまとめました。しかし、遺産分割協議を行うためには法律知識を知っているだけではなく、実際に行動に移さなければなりません。
とくに、あなたが遺産を管理していない場合、遺産を管理している相続人が遺産を渡さない場合もあります。このようなときは、あなたが遺産分割調停や訴訟を起こさないと遺産分割手続きは進みません。
相続問題は、あなたが動かないと解決しないということは、とくに重要な点ですので肝に銘じていただきたいと思います。遺産分割協議についての法律知識を活用して、あなたの相続問題を実際に解決していただけることを祈っております。