遺産分割の対象となる財産とならない財産について実務的な対応を踏まえて解説

遺産分割の対象となるのは、相続時及び遺産分割時に存在した遺産(相続財産)です。具体的には以下のような遺産(相続財産)が遺産分割の対象となる具体例です。

  • 現金
  • 預貯金
  • 株式・国債・投資信託
  • 不動産(土地・建物)
  • 自動車
  • 宝飾品など

他方で、生命保険金・死亡退職金などは遺産分割の対象とならないと考えられています。この記事では遺産分割の対象となるものは何かや、その注意点について遺産相続に強い弁護士が実務的な観点から解説します。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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遺産分割の対象となる財産とは

遺産分割の対象財産の判断基準

遺産分割の対象となる財産は、まずどの時点に存在したかで判断されます。この点について、実務においては相続開始時及び遺産分割時に存在する相続財産が遺産分割の対象となると考えられています。

例えば、相続開始時に存在した家屋が火事で燃えてしまい遺産分割時に滅失した場合は、遺産分割の対象とならないと考えられています。このような場合は、家屋にかけられた保険金や火事を起こした人への損害賠償請求権が生じますが、これらは「遺産の代償財産」の問題となるものの遺産分割の対象にはなりません。

 

遺産分割と相続税の対象の違い

また、何が遺産分割の対象となるかの問題は、あくまで法定相続人同士で遺産分割協議が必要かという観点での問題です。これに対し、相続税の課税対象となる相続財産は、公平な課税の観点から定められています。

簡単に言えば、相続税の課税対象となる相続財産は、遺産分割の対象となる相続財産よりも広いです。「みなし相続財産」として、相続開始時の財産ではないものの被相続人の死亡により相続人が取得する財産は相続税の課税対象財産とされています(相続税法3条)。

この記事では、相続人が遺産分割協議をする場合にどのような遺産(相続財産)を対象とするかの観点から解説し、必要に応じて相続税の課税対象財産にも言及します。

 

遺産分割の対象となる財産とならない財産について

 

遺産分割の対象となる財産

まず、遺産分割の対象となる財産について例をあげていきましょう。相続開始時・遺産分割時に存在する、被相続人名義の現金、預貯金、土地・建物などの不動産、借地権・借家権など不動産上の権利、上場株式・国債・投資信託などの有価証券、貸付金・売掛金などの債権、家財や貴金属などの宝飾類、美術品、骨董品、自動車や船舶などの動産、著作権・ゴルフ会員権、慰謝料・損害賠償請求権、電話加入権などの権利は遺産分割の対象となります。

遺産分割の対象とならない財産

遺産分割の対象とならないのは、国家資格や身元保証人としての地位、生活保護受給資格などに代表される「被相続人の一身専属権」などです。死亡退職金に保険金のような「受取人固有の財産」、家系図や位牌のような「祭祀に関する財産」も遺産分割の対象となりません。

借金・負債などのマイナスの相続財産について

遺産(相続財産)はプラスの財産(積極財産)のみでなく、借金・負債などのマイナスの財産(消極財産)もあります。「消極財産」とは、住宅ローンや金融機関からの融資、小切手など借金全般のことで、住民税や所得税など未払いの税金も含まれます。さらに、家賃や医療費なども未払いがあれば「消極財産」となります。

消極財産は、相続の対象とはなるものの、遺産分割の対象とはなりません。借金・負債は債権者という相手方がいるため、法定相続人による遺産分割で負担割合を変えることができないのです。借金・負債などの債務については、遺産分割の対象とならず法定相続人の相続分に応じて相続することになります。なお、借金・負債の相続の問題点については下記記事もご覧ください。
(参考)借金の相続で大損しないために知らなかった借金の調べ方や相続放棄の注意点などを解説

 

預貯金が遺産分割の対象となるかと最高裁判例について

遺産(相続財産)で一番多いものは預貯金です。預貯金については、最高裁判例の変遷や法改正があるため詳しく解説します。預貯金は、相続開始後の葬儀費用などを用意するために、遺産分割を待たずに引き出す必要があります。

預貯金が遺産分割の対象となるかは、相続開始直後の預貯金引出しとも関連して実務的にも問題になるケースが多い点です。

 

預貯金は遺産分割の対象となる

預貯金債権については、過去には遺産分割の対象とならず、相続開始時に当然分割されて相続人が相続分に応じて権利を取得すると考えられていました(最高裁平成16年4月20日判決など)。

しかし、最高裁判例の変更があり、現在は預貯金債権は遺産分割の対象となると考えられています(最高裁平成28年12月19日判決)。ポイントは、遺産分割の対象となる=遺産分割協議が必要であるため、預貯金債権は相続開始時に当然相続人が取得するわけではないということです。

遺産分割前に預貯金の引き出しは可能か?

預貯金は遺産分割の対象とならないと考えられているため、いくつか注意点があります。

たとえば、被相続人名義の普通預金などは生活費などの支払いと密接なこともあり、被相続人と同居していた子どもが被相続人の代わりに管理することがあります。通帳を預かって親の治療費や介護費用などの支払いをすることも珍しいことではありません。しかし、被相続人が亡くなった後はすべての預貯金が「遺産分割」の対象となるため、口座は凍結され、通常は引き出すことができなくなります。

被相続人が同居家族の生活費を出していたような場合、すべての預貯金が引き出せなくなると同居家族は困ることになります。また、葬儀費用の捻出や入院費の精算などもできないでしょう。

そのため、2019年7月に法改正がされて、一定金額までであれば預貯金の引き出しが可能となりました(預貯金の仮払い制度)。具体的には、各相続人は150万円を上限として、預貯金の1/3に法定相続分を乗じた金額を単独で引き出すことが可能です。相続開始後にお金がないときは、この預貯金の仮払い制度を利用することになります。

仮払い制度で預貯金が引き出されたときの対応

仮払い制度により預貯金が引き出されたときは、当該引出金額は相続人が遺産の一部分割で取得したとみなされます(民法90条の2後段)。従って、当該引出金額は遺産分割が完了したとみなされるため、改めて遺産分割の対象とはなりません。

 

遺産分割の対象となる財産の具体例と問題点

ここからは、相続財産ごとに遺産分割の対象となるか否か、及び特有の問題点について解説します。

 

現金

現金は動産として遺産分割の対象となります。なお、現金を発見したときは、相続人が自分の預貯金口座に入金して保管する場合がありますが、このようなときは「相続人保管の預り金」として扱うことになります。

預貯金

預貯金は前述のとおり最高裁の判例変更により遺産分割の対象となると考えられています。

なお、実務的には、相続財産を調査する過程において、被相続人名義の預貯金が同居家族によって使われた疑いがあるケースも少なくありません。これを「預貯金の使い込み」や「使途不明金」の問題といいます。

預貯金の使い込みや使途不明金が疑われるケースは、遺産分割において激しく揉めることが少なくありません。このような場合は早めに弁護士に相談することをおすすめします。

株式・国債・投資信託など

株式・国債・投資信託などは裁判例でも見解が分かれていますが、原則として遺産分割の対象となると考えられています。たとえば、最高裁平成26年2月25日判決は、株式・国債・投資信託のいずれも遺産分割の対象となると判断しています。

注意

被相続人が会社経営をしており、遺産(相続財産)に経営していた会社の株式(非上場株式)がある場合は遺産分割において様々な考慮が必要です。非上場株式は、事業承継の問題や株価評価の問題があります。このような場合は、企業法務(とくにM&A/事業承継)と遺産相続のいずれにも詳しい弁護士に早めに相談することをおすすめします。

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不動産(土地・建物)

土地・建物などの不動産は遺産分割の対象となります。

また、不動産賃借権も原則として遺産分割の対象となると考えられますが、公営住宅を使用する権利は遺産(相続財産)とならず相続人は承継でいないと考えられています(最高裁平成2年10月18日判決)。

生命保険金

生命保険金は遺産(相続財産)ではなく、相続人が固有財産として取得するため遺産分割の対象となりません(最高裁昭和40年2月2日判決など)。

ただし、生命保険金があまりに過大であり、他の相続人と不公平が是認できないときには「特別受益」として餅戻しの対象となる場合があります(最高裁平成16年10月29日決定)。生命保険金がどの程度の金額であれば、特別受益として評価されるかは明確な基準はないものの、遺産(相続財産)の50%を超えるときは持戻しの対象となると考えられます。たとえば、名古屋高裁平成18年3月27日決定は、生命保険金の金額÷相続財産の総額が61.1%だった事案において、生命保険金を特別受益として持戻しの対象となると判断しました。

MEMO

相続税の課税対象財産という点では、被相続人の死亡により取得した生命保険金や損害保険金で、被相続人が保険料を負担していたものは相続財産の課税対象財産とされいます。
(参考)国税庁HP:相続税の課税対象になる死亡保険金

死亡退職金

死亡退職金については実務上退職金支給規程を確認して個別的に遺産分割の対象となるかを検討します。もっとも、多くのケースでは受給権者の固有の権利であり、そもそも遺産(相続財産)ではないため遺産分割の対象とならないと判断されます。

たとえば、死亡退職金支給規程がない財団法人において、受給権者の定めがないものの、財団法人が死亡退職金を被相続人の配偶者に支給する旨の決定をした事案において、当該死亡退職金は配偶者の固有の権利と判断されています(最高裁昭和62年3月3日判決)。

貸金庫契約上の地位

貸金庫契約上の地位は、相続開始直後に遺言書を探す必要に関連して、遺産分割の対象となるかが問題となります。貸金庫に遺言書が保管されているときに、相続開始直後の貸金庫契約上の地位をどのように考えるかで扱いが変わるからです。なお、遺言書の探し方については下記記事も参考にしてください。
(参考)【最新版】遺言書の探し方を解説:2020年7月スタートの自筆証書遺言制度等の最新情報

この点については、実務上は法定相続人全員が同意することで、相続人の誰かを代表者として貸金庫契約上の地位に基づいて開扉を求めることができるとしています。ただし、遺産分割協議が成立する見込みがなくなったときには、他相続人の立会いを要せず貸金庫の開扉を求めることができるとも考えられます(東京地裁平成8年5月17日判決)。

貸金庫の開扉を巡って相続人同士で揉めるようなケースは、実務的には様々な対応方法があります。遺産相続に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

 

まとめ:遺産分割の対象についての問題点をチェックする

遺産分割の対象は、そもそも遺産(相続財産)になるのか否かや、遺産(相続財産)ではあるものの当然に相続人が承継するため遺産分割の対象とならないかなどの問題があります。

とくに預貯金の取扱いや、同居親族による無断引出し(使途不明金)の問題や、被相続人が経営していた会社の非上場株式などが相続財産にあるときは、遺産分割では揉めやすいので注意が必要です。

遺産分割の対象を巡って相続人同士で揉めたときは弁護士に相談することをおすすめします。

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