遺産分割協議がまとまらないときの対処法:話し合いの工夫、法的手続き、相続税申告の延長手続きまで徹底解説

遺産分割協議がまとまらないときは、どのように遺産相続の手続きを進めて良いか悩まれるかもしれません。

遺産分割の割合が法律で定められているにもかかわらず、実際にはそれぞれの取り分をどうするかで揉めるケースが少なくありません。そこで、この記事では、遺産分割協議がまとまらない原因、遺産分割協議がまとまらない場合の対応方法について解説していきます。

 

遺産相続の手続きには下記の通り様々な期限があります。遺産分割協議がまとまらないときは、通常通りの期限内に手続きができないことも少なくありません。とくに相続税の申告・納付は重要ですので、遺産分割協議がまとまらないときにどのように対応するべきかはポイントになります。
(参考)相続の期限一覧:流れに沿って相続の全手続きを弁護士が解説

 

遺産分割協議がまとまらないときに必要な知識をすべてまとめています。順番に最後まで読んでいただくことで分かるように説明しますので、最後までお読みください。

(執筆者)弁護士 坂尾陽(Akira Sakao -attorney at law-)

2009年      京都大学法学部卒業
2011年      京都大学法科大学院修了
2011年      司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~     アイシア法律事務所開業

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法律知識だけでは解決できない!遺産分割協議がまとまらない原因

具体的にどのように相続財産を分けるかは明確ではない

遺産分割協議がまとまらない原因は、法律知識だけでは解決できないからです。法律知識があれば、遺産分割の割合や方法は知ることができます。しかし、具体的に、どのように遺産(相続財産)を分けるべきかは法定相続人間で意見が対立する場合が少なくありません。

「遺族が故人の財産をいくら相続するか」が話し合いでまとまらない場合は、法定相続分として割合が法律で定められています。たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の場合は配偶者が全財産の2分の1、子どもたちが4分の1ずつを相続するといった具合です。
(参考)遺産分割の割合とは?遺産分割の割合を決める3つの方法や注意点を解説

その際、相続財産がすべて現金ならあまり問題にはなりません。しかし、現実には住宅や土地、自動車などのように、簡単に分割できないものもあります。そういった場合には、財産を誰がどのように相続するかを話し合うための遺産分割協議が必要です。しかし、いざ協議を始めてみると、話がまとまらずに揉めごとになってしまうケースも少なくありません。
(参考)遺産分割の方法-主要3種類の方法と注意点を相続弁護士が解説

遺産分割協議がまとまらないケース

遺産分割協議がまとまらないよくある例としては、以下のようなものがあります。

  • 遺言書について、本当に被相続人が作成したのか、有効なのか争いがある
  • 被相続人名義の預貯金口座から不審な入出金が多数ある
  • 多数の相続人に対して財産は単一の不動産しかなく、どのように分けるべきかの結論がでない
  • 残された母を介護していたから多めに財産がほしいといって譲らない
  • 長年故人と疎遠だった親族が自分と同等の遺産相続を主張するのが納得できない

他にも、相続人同士の仲が悪かったり、隠し子が遺産相続を主張してきたことに他の遺族が反発したりして遺産分割協議がまとまらない事態に陥ることも珍しくありません。

遺産(相続財産)が少額でもまとまらないことは多い

ちなみに、遺産分割協議がまとまらないのは、資産家や富裕層だけの話とは限らないので注意が必要です。

実際、日本経済新聞の調べによると、遺産分割に関するトラブルの約4分の3は遺産額5,000万円以下の世帯で起きているのです。そのため、「自分のところは財産も少ないから大丈夫」などと思い込まず、遺産分割協議がまとまらない場合の対策を考えておくのが賢明でしょう。

 

遺産分割協議がまとまらない場合の工夫について

遺産分割協議がまとまらないときに必要な心がけ

遺産分割がまとまらない問題を解決するためには、相続人同士の協議に臨むときの心がけが重要になります。

まとまらない遺産分割協議で心がけるべきことは、「何よりも大切なのは協議を行う」という強い意思を持つことです。遺産分割協議で意見が対立した場合は、相続人同士で険悪なムードになりがちなため、「協議を開きたくない」という気持ちになってしまう可能性もあります。

しかし、話をしっかりと進めていかなければ、いつまでたっても遺産分割がまとまらないままとなってしまいかねません。

他の相続人の立場になってまとまらない原因を把握する

遺産分割協議が始まると、故人(被相続人)に対する想いや遺産へのこだわりがぶつかり合って熱くなってしまうことも少なくありません。遺産分割協議がまとまらないのは、相続人同士の感情的な対立が背景にあります。

だからこそ、あらかじめ意識して感情を抑える努力が必要となります。また、冷静な気持ちになった後は、一歩引いて客観的な立場で物事を見てみることも重要です。冷静に考えると、利害関係が対立しているため遺産分割協議がまとまらないわけでないと気付くかもしれません。

他の相続人の立場になって考えてみると、遺産分割協議がまとまらない原因が分かるかもしれません。とくに、その相続人の利害関係(遺産をどれぐらい欲しいか)と感情的なしこり(何にこだわっているのか)を分けて考えることも有益です。

たとえば、親の介護をしている兄弟がいた場合は寄与分を主張することがあります。これに対し、他の相続人が寄与分を認めずに遺産分割協議がまとまらないとします。
(参考)寄与分とは?計算方法・認められる具体例や相続法改正による特別寄与料制度まで22のポイントを徹底解説

しかし、寄与分に反対する相続人は、遺産の取り分が減るのは良いものの、自分が親の介護を何もしていないと思われるのが嫌なだけで反対しているかもしれません。このような場合は、寄与分として認めるのではなく、寄与分を主張する相続人の子どもが大学進学のタイミングでお金が必要だからと建前を変えて、少し多めの遺産配分を認めることで遺産分割協議がまとまる可能性もあります。

法律知識を踏まえて議長になり遺産分割協議をまとめる

また、相続財産の価値や遺産分割に関する法的権利を正しく理解しておくことも協議をスムーズに進めるうえでの一助となります。そして、法律知識を踏まえて、遺産分割協議の議長となって議論を整理することで遺産分割協議がまとまる場合もあります。

遺産分割協議がまとまらない原因として、多数の相続人がそれぞれ相続財産の価値や法律上の権利について勘違いしているケースもあります。

たとえば、思いこみで資産価値を高く見積もっていたり、自分にはもっと相続の権利があると考えていたりする場合があるからです。きちんと法律知識を勉強して、相続人間の共通認識を確認しながら議論を整理することで遺産分割協議がまとまる場合もあります。

ポイントとしては、相続人があれこれと勝手なことを言わないように、段階的にポイントを整理することです。例えば、そもそも遺言書はあるのか、どれぐらい相続財産があるのか、誰がどれぐらい遺産を貰えるのか、各相続人がどんな遺産を貰いたいのかなどを順番に話し合います。このような論点毎に相続人の納得を得て、次の論点をまとめるようにすれば、どこで遺産分割協議がまとまらないのかが明確に分かるでしょう。

ちなみに、遺産分割協議は相続者全員が集まらなくても開催自体は可能です。まずは、自分自身が参加の意思を強く持ち、遺産分割協議をまとめたいと考えてくれる相続人になるべく多くの参加を呼び掛けるようにしましょう。

 

相続人同士では遺産分割協議がまとまらない場合の手続き

専門家に依頼して遺産分割協議をまとめる

相続人同士で遺産分割協議をいくら行っても話がまとまりそうにない場合には、専門家の手を借りるという手があります。

遺産相続に関与する専門家は様々です。相続財産が多額で相続税申告が必要なときは税理士が、相続財産に不動産があるときは司法書士が関与していることもあるでしょう。しかし、遺産分割協議が揉めてまとまらない場合は弁護士が専門家です。「紛争性のある遺産相続問題」は原則として弁護士のみが扱うことができます。

弁護士に相談することで、過去の事例に基づいたアドバイスや法的にはどうするのが正しいのかといった知識が得られるため、それが遺産分割協議をまとめる突破口になる可能性もあります。

また、遺産分割協議の段階から弁護士に依頼することも考えられます。弁護士=裁判手続きというイメージを持たれる方もいますが、遺産分割協議がまとまらないので代わりに交渉して欲しいという依頼も少なくありません。遺産分割協議がまとまらないときは当事者同士で話し合っても感情的な話し合いになりがちですが、弁護士が議論を整理しながら遺産分割協議を進めていけば、冷静に話ができることも少なくありません。

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遺産分割協議の調停・審判の申立て

しかし、それでも遺産分割協議がまとまらない場合は「家庭裁判所に問題を持ち込む」という選択肢も考えなくてはなりません。

まずは家庭裁判所に遺産分割協議の調停を申立てます。調停段階では家庭裁判所で行われることも基本的には話し合いです。しかし、調停をしても遺産分割がまとまらなければ、審判手続きに移行して裁判所が最終的に遺産分割を決定するため、強制的に遺産分割をまとめることができます。
(参考)遺産分割がまとまらないときの法的手続き

遺言無効確認訴訟:遺言書で揉めて遺産分割協議がまとまらないときの対応

遺言書があるときは、そもそも遺産分割協議が必要でないことも少なくありません。しかし、遺言書があるものの、本当に被相続人が作成したものかや有効なものかを巡って揉めるときもあります。

このような場合には、遺言書無効確認訴訟の手続きを行う場合があります。遺言の無効についての争いも調停申立てをすることも考えられます。しかし、遺言の効力が争われるときは対立が激しく、調停がまとまる見込みがないので実務上はいきなり訴訟を提起するのが通例とされています。

遺言書の無効の理由として、遺言者(被相続人)が遺言書を作成した当時に認知症だったため遺言能力がないと主張されることが増えています。認知症と遺言の効力については下記記事も参考にしてください。
(参考)被相続人が認知症であった場合の裁判例

遺産の範囲に争いがある場合

また、そもそも遺産が何かについて争いがあることも少なくありません。たとえば、被相続人名義の預貯金口座から使途不明な入出金が多数あるようなときです。このような場合は、被相続人と同居していた親族の預貯金の無断引出しが疑われます(使途不明金)。

預貯金の無断引出しや使途不明金の問題は、以下のように具体的な事実関係に応じて争い方は変わります。しかし、本当であれば遺産(相続財産)はもっと存在したはずだと考えられます。このような場合には訴訟等の手続きを取る必要がある場合もあります。

  • 遺産確認の訴え:引き出された現金が存在しており、遺産に含まれる場合
  • 特別受益の主張:預貯金の引出しが被相続人の意思で同居親族に贈与された場合
  • 不当利得・不法行為の主張:同居親族が無断で預貯金を引き出していた場合

なお、遺産分割の前提問題について家庭裁判所が判断することも一応可能です。ただし、これは最終的な解決につながるとは限らないため、注意する必要があります。なぜなら、審判の結果を不服とする者が民事訴訟を起こし、主張が認められればその判決が優先されてしまうからです。そのため、前提問題で対立している場合は、民事訴訟でその問題を解決させてから遺産分割を行うのが賢明だといえます。

 

相続税の期限内に遺産分割がまとまらなかった場合の対処法

10か月以内に相続税の申告・納付が必要

遺産分割がまとまらないときの相続税申告については、注意が必要です。なぜなら、相続人間で遺産分割協議がまとまっているかどうかにかかわらず、相続税の申告期限はあらかじめ定められているからです。

相続税の申告期限は、被相続人が死亡した事実を知った日の翌日から10カ月以内となっています。そのため、遺産分割がまとまらないからといって相続税を払わなければ未納扱いとされ、後々不具合をもたらすことになってしまうのです。

法定相続分での遺産分割による相続税の申告

相続税の期限何に遺産分割協議がまとまらない場合の対応方法として、各相続人が民法の規定通りに相続したと仮定して相続税を払い、遺産分割が正式に行われた後で納税をし直す方法があります。

具体的には、払うべき税金が当初の想定よりも多かった場合は修正申告、少なかった場合は更生申告を行えばよいわけです(ただし、支払う相続税額が少ない場合の更生請求は遺産分割がまとまってから4か月以内にする必要があります)。
(参考)国税庁HP:相続財産が分割されていないときの申告

3年以内に遺産分割協議がまとまれば特例の適用も可能

なお、遺産分割協議がまとまっていない場合は、相続税の申告において各種特例が適用できません。たとえば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の計算の特例などといった優遇措置は適用しないまま申告する必要があります。

しかし、このような場合は実務上、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割する見込みがある旨の書類を添付しておき、相続税の申告期限内から3年以内に遺産分割協議がまとまれば特例の適用を受けることができます。

なお、相続等に関する訴えが定期されている場合は3年以内に遺産分割協議がまとめられない場合があります。このような場合には、遺産分割がまとまらないやむを得ない事情があると言えます。そこで、相続税の申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に、遺産分割がまとまらないことにやむを得ない事由がある旨の承認申請を行って承認を受けることで特例の適用を3年間から伸ばすことができるのでご安心ください。

(参考)国税庁HP:遺産分割が行われていない場合の各種特例の適用手続

 

まとめ:遺産分割協議がまとまらない場合でも対処はできる!

遺産分割協議がまとまらない場合は無事に遺産相続を終えられるか不安になるかもしれません。しかし、最終的には様々な方法により遺産分割協議をまとめられますし、相続税の申告等の対処も可能です。最後に重要な点をまとめておきます。

  • まずは相続人同士で遺産分割協議をまとめられないか冷静に工夫する
  • 弁護士が介入することで遺産分割協議がまとまることもある
  • 最終的には裁判手続きによって遺産分割協議をまとめる方法がある
  • 遺産分割協議がまとまらないときは、法定相続分で一旦相続税を申告する
  • 遺産分割協議がまとまるまで相続税の軽減措置の特例などを伸ばす方法がある

遺産分割協議がまとまらないときは、この記事などを参考にしつつ、実行に移しやすいものから段階的に対策を講じていきましょう。感情的になるのを避け、冷静に対処することで解決の糸口は見えてくるはずです。もし、相続人同士での話し合いでは遺産分割協議がまとめられないと感じたときは、早めに相続・遺産分割に強い弁護士に相談することをおすすめします。

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