相続で養子縁組が問題になるケースは少なくありません。とくに富裕層が相続対策を考えたときに養子縁組は便利なツールとも思えます。しかし、実子の相続については解説も多いですが、養子縁組は身近な問題として知られていないということがほとんどです。
そもそも相続は、被相続人(亡くなった人)が残した遺産(相続財産)を相続人(基本的にその家族や親族)が包括的に承継することです。そして、相続人には養子縁組による子どもも含まれます。
相続において相続人は重要な役割を果たすことから養子縁組により相続人を増やそうとするわけです。の記事では、相続と養子縁組について主に税務・法務の観点から4つのポイントに分けて解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
養子縁組による相続対策とは
相続と養子縁組が問題になる3つの場面
まず、相続に養子縁組が絡む場面として大きく3つの場面が考えられます。
- 争族(遺産分割)の場面:養子縁組を相続人に加えることで法定相続人が増加する
- 相続税対策:基礎控除金額を増やす又は遺贈による贈与税の相続税の転換
- 遺留分侵害額(減殺)請求:養子縁組で相続人が増加して遺留分が低下する
この記事では各場面について相続と養子縁組の問題について解説します。
相続対策で養子縁組をするケースは、孫を養子にする又は甥・姪を養子縁組にすることが多いです。親族のうちから良好な関係にある孫や甥姪を養子縁組することで、被相続人の思いどおりの相続を実現するわけです。この記事でも、孫や甥姪を養子にしたケースを念頭に解説します。
養子縁組の種類
相続と養子縁組について解説する前に、簡単に養子縁組の基礎知識について説明します。
養子縁組とは、親子関係のない者同士を法律上親子関係があるものとすることです。そして養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組の2つの種類があります。
普通養子縁組とは
普通養子縁組は一般的に「養子縁組」と呼ばれるものを指します。養親と養子の同意によって養子縁組が成立します。
普通養子縁組は、実の親とも縁が切れず法律上の親子関係は継続します。そのため、養子は、実親と養親の両方を親に持ちます。
離縁は、養親と養子の同意で出来ますが、養子が15才未満のときは法定代理人と養親の協議によります。
特別養子縁組とは
特別養子縁組は、裁判所(国)が「親子とする」と審判で認めることで養子縁組縁組が成立します。
特別養子縁組では実親との縁が切れて養親とだけの親子関係となります。基本的に離縁することは認められていません。
特別養子縁組は複雑な出生の子どもについて、中絶や児童虐待や虐待死から子供を守るための制度です。やや特殊なケースと言えるため、この記事では原則として普通養子縁組を念頭に解説します。
相続における養子縁組の種類による違い
相続においては、普通養子縁組では実親と養親の両方の扶養義務と相続権を持つことになり、特別養子縁組では養親の扶養義務と相続権を持つことになります。
争族対策としての養子縁組
まず養子縁組によって、遺産(相続財産)をどのように分けるか(=遺産分割)の問題に対応することが考えられます。争族とは、被相続人が遺産分割について定めなかったため相続人同士が遺産(相続財産)の分け方をめぐって争うものです。
(参考)遺産分割の手続きで損をしないための進め方と知っておくべきポイント
法定相続人と養子縁組
法定相続人とは法律で相続人とされる人の範囲のことです。法定相続人には順位が細かく決められています。
まず被相続人の配偶者は必ず法定相続人になります。
次に、配偶者以外の親族については以下の順番で相続人になります。
- 第1順位:直系卑属(子ども・孫・ひ孫)
- 第2順位:直系尊属(父母・祖父母)
- 第3順位:兄弟姉妹
どのような場合に養子縁組が有効か?
上記のとおり法定相続人には順番が決められており、相続人に子どもがいれば親や兄弟姉妹は相続人になりません。しかし、養子縁組によって養子になれば、優先順位の第1順位の相続人になります。
そこで、争族を避けるため法定相続人として確実に財産を承継させたい人がいる場合には、その人を養子縁組にすることで対策ができます。例えば、以下のようなケースが考えられます。
養子縁組とする人 | 争族対策のポイント |
---|---|
孫 | 本来財産はまず子が相続し、子が死亡すると孫が相続するという流れが一般的ですが、孫を養子にすることで直接孫に相続させることが出来ます。 |
配偶者の連れ子 | 再婚相手の子どもに相続をさせたい場合、その子どもを養子縁組にしない限りその子どもは財産を相続することができません。そこで養子縁組をして相続させるという方法があります。 |
子どもの配偶者 | 子どもが女性ばかりなので、家を継いでもらう目的などで娘の婿を養子縁組にして財産を相続させることもあります(婿養子)。 |
相続税対策と養子縁組
相続税で養子縁組が問題になる場面
相続税の計算を行うときにおいて、主に以下の4項目については法定相続人が関係します。
- 相続税の基礎控除額
- 生命保険金の非課税限度額
- 死亡退職金の非課税限度額
- 相続税の総額の計算
法定相続人の数が関係するため、実子に加えて養子が存在することで相続税の金額が変わってきます。
養子縁組によって基礎控除を増やす相続税対策
たとえば、養子縁組をすることで基礎控除額が増えて相続税が節税できます。
相続税は、相続財産から基礎控除額を引いた残額をベースに計算されます。そして、基礎控除額は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」で計算されます。
法定相続人には実子と養子のいずれも含まれるので、養子縁組によって法定相続人を増やせば基礎控除額が大きくなるため相続税が節税できるのです。
相続税対策できる養子の数は限定される
ただし、養子縁組による相続税対策には限度があります。民法上可能な養子に人数制限はありませんし、民法上の法定相続人にも制限はありません。
しかし、相続税法においては、節税対策を行う人が増えるのを防ぐため、養子の数を限定しています。具体的には基礎控除の計算で法定相続人される養子の人数は以下の通りとされています。
- 実子がいる場合:養子は1人まで
- 実子がいない場合:養子は2人まで
ただし、節税目的が明らかとされた場合は、そもそも養子を法定相続人の数にいれることはできないと判断される場合があります。
(参考)国税庁HP:No.4170 相続人の中に養子がいるとき
養子縁組をするときは相続税の2割加算に注意する
相続税対策のために養子縁組をするときは相続税の2割加算に注意する必要があります。相続税の2割加算とは被相続人の配偶者・親・子ども以外の相続については相続税が2割加算されるものです。
たとえば孫を養子縁組したときは、養子縁組をした孫の相続については相続税の2割加算の対象となります。基礎控除額や非課税限度額が増えるメリットの一方で、このようなデメリットがあることにもご注意ください。
遺留分対策の養子縁組
遺留分が問題になる理由
最後に遺留分対策としての養子縁組についても説明します。遺留分とは、民法で定められている相続人が最低限取得できる遺産(相続財産)です。遺言がある場合、被相続人は自由に相続人以外の人や法人に財産を与えることが出来ます。しかし、それでは残された家族に酷な結果になる場合があるため、最低限の相続分が遺留分として保証されるのです。
遺留分の権利者は、被相続人の配偶者、子ども、父母(直系尊属)です。つまり、法定相続人である第3順位の兄弟姉妹にも遺留分はありません。
もし、遺言によって遺留分を侵害されたときは、遺留分を確保するために「遺留分侵害額請求」をすることが出来ます。これによって遺留分相当額の遺産(相続財産)を得ることができるのです。
(参考)遺留分侵害額(減殺)請求に応じないときのたった1つのポイント:拒否する根拠や成功させる方法も解説
養子縁組による遺留分対策とは
しかし、養子縁組をすることで一定程度の遺留分対策をすることができます。遺留分の割合は相続人が誰かによって以下の通り決められているからです。
相続人 | 遺留分の割合 |
---|---|
配偶者のみ | 配偶者1/2 |
配偶者と子ども
|
配偶者1/4
子ども1/4 |
子どものみ | 子ども1/2 |
配偶者と父母
|
配偶者1/3
父母1/6 |
父母のみ | 父母1/3 |
ここで子どもが複数いるときは、子どもの遺留分を人数で割った金額が子ども1人当たりの遺留分になります。
遺留分の場面では養子と実子は同じに扱われるため、養子縁組で相続人が増えれば、他の相続人の遺留分が減少します。また、父母は子どもが居ないときにのみ遺留分の権利者となるため、の親族を養子にすれば父母に遺留分を残さないこともできます。
このように養子縁組を活用すれば、遺留分についても被相続人がある程度コントロールすることができます。
相続税対策と異なり遺留分の計算では養子縁組ができる人数に制限はありません。そのため、理論的には大量の養子縁組により限りなく遺留分を減少させることも可能です。
遺留分減少目的の養子縁組が無効になるケース
もっとも、被相続人による養子縁組が遺留分権利者の請求を妨害する目的であるときは無効になるケースもあります。
なぜなら、養子縁組は、真に親子関係の設定を欲する効果意思がなければ無効になるからです(民法802条1項)。
例えば、以下のような裁判例では養子縁組が無効と判断されています。
裁判例 | 判断の概要 |
---|---|
東京高裁昭和57年2月22日判決 | 養子縁組の当時に親族間で激しい感情的な対立があり、被相続人は養子縁組の趣旨を正確に理解していなかったとして、養子縁組を無効と判断した。 |
東京高裁平成2年5月31日判決 | 認知症の2年前にした養子縁組について、被相続人が正常な判断能力で養子年組をしたものではないと推認するべきとして、養子縁組を無効と判断した。 |
高松高裁平成5年12月21日判決 | 被保佐人であった被相続人による養子縁組について無効と判断した。 |
このように養子縁組によって遺留分侵害額(減殺)請求が妨害されたときは、養子縁組に至った事情次第では無効と判断される可能性があります。このような場合は遺留分侵害額(減殺)請求に強い弁護士に相談することをおすすめします。
(参考)遺留分侵害額請求に強い弁護士に無料で法律相談するなら
まとめ:相続において養子縁組には色々な効果がある
養子縁組をすることで相続において様々な効果・メリットがあります。
- 争族対策として養子に相続財産を分配する
- 基礎控除額・非課税限度額が増えて相続税対策になる
- 養子縁組により遺留分を減少させる
しかし、養子縁組を法定相続人に加えることで、遺産分割の話がまとまりにくくなったり、孫を養子縁組にすることで相続税2割加算の対象になるなどのデメリットもあります。
また、遺留分減少目的の養子縁組は無効と判断されるリスクもあり、現実に養子縁組を無効とした裁判例もあります。
相続で養子縁組をすると関わってくる人が増えるため状況が複雑になりやすく、その分様々な問題も起きやすくなります。それらを出来るだけ避けるためにも、専門家である弁護士に相談をされることをお勧めします。
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