寄与分は、遺産(相続財産)の維持・増加に貢献したことを遺産分割に反映させる制度であり、寄与分が認められると相続財産の取り分が増えます。
この記事では寄与分が認められるケースやその算定方法について解説します。どのような場合にどのぐらいの寄与分が認められるかの実務的な取扱いや、2019年相続法改正により認められた特別寄与料の制度についても解説します。遺産相続に詳しい弁護士が分かりやすく解説しますので、最後までお読みください。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
寄与分とは
寄与分とは、被相続人の事業を手伝ったことや被相続人を介護したことなどで、遺産(相続財産)の維持・増加に貢献があったときに認められるものです。相続人に寄与分があるときは遺産分割において相続財産を多く貰えます。
元々、寄与分は相続人のみに認められました。しかし、これでは相続人の配偶者が被相続人の介護をしていたようなときに当該配偶者が何も貰えないと不公平です。そこで、2019年相続法改正により、相続人以外の親族に寄与分があるときは特別寄与料を請求できるようになりました。
実務上、寄与分として数百万円程度が認めらえることも少なくありません。しっかり寄与分を主張しないと数百万円も損をする可能性があります。他方で、寄与分は個別具体的事情に基づいてどの程度認められるかを主張立証する必要があり、また手続きも必要です。この記事では寄与分を主張したい方のために必要な知識を分かりやすく順番に解説しますので最後までお読みください。
相続人の寄与分と新設された特別寄与料は同じような点が問題になります。本記事ではまず相続人の寄与分を念頭において説明をし、新設された特別寄与料は最後にまとめて説明します。
寄与分が認められる要件について
民法904条の2による寄与分の要件
寄与分が認められる要件については民法904条の2に定められており、以下のとおりと解されています。
- 相続人みずからの寄与行為であること
- 特別の寄与であること
- 遺産(相続財産)の維持・増加があること
- 寄与行為と維持・増加に因果関係があること
01 相続人みずからの寄与行為であること
寄与分が認められるのは相続人に限られるとしています。
しかし、実務上は、亡くなった相続人の子どもが代襲相続をしたときに、亡くなった相続人の寄与行為を主張することができます。また、相続人の配偶者や子どもの寄与行為も、相続人の寄与行為として認められる場合も少なくありません(東京高裁平成22年9月13日決定など)。このようなときは諦めずに寄与分を主張できないか弁護士に相談することをおすすめします。
02 特別の寄与であること
相続人は被相続人の生活を面倒を見ることが通常期待されています。そのため、通常期待される程度を超えたような「特別の寄与」が必要とされています。
もっとも、実務上は各相続人が積極的に寄与分を定める申立てをしたときに、各自に寄与分を判断するとされています。そのため、基本的には何かしらの貢献があれば寄与分の主張をする方が良いということになります。
相続人以外の親族による特別寄与料の制度では、特別の寄与について「通常期待される程度の貢献を超えた」とは解釈されません。相続人の寄与分と特別寄与料では「特別の寄与」の意味が異なると考えられています。
03 遺産(相続財産)の維持・増加があること・その因果関係
寄与分は、相続人の貢献によって遺産(相続財産)が維持・増加したときに認められます。つまり、相続人の貢献を金額に換算するのですが、実務上は以下のような方法で遺産(相続財産)の維持・増加の金額を算定します。
- 遺産(相続財産)の何%という割合で算定する
- 相続人の貢献を通常必要な日当で計算する
- 相続人の貢献による財産管理に必要な費用を計算する
この点については寄与分が認められる具体例でそれぞれ詳しく解説します。
各類型で寄与分が認められる具体例と算定方法
どのような類型で寄与分が認められるか?
寄与分が認められるケースはいくつかの類型に分けられます。
たとえば自営業や農業の手伝いで賃金を受け取らずに働いてきた場合などには「家業従事型の寄与」ということで認められることがあります。
また、亡くなった被相続人の生活や事業に対して、高額な生活費や施設入居費を支払っていたり、土地や建物の購入費を援助していたりすれば認められる可能性もあるでしょう。これを、「金銭出資型の寄与」といいます。
さらに、被相続者を介護してきた場合は「療養看護型の寄与」、被相続人を一部の相続人が長期間にわたって扶養していた場合は「扶養型の寄与」として認められるケースが多い傾向です。
そこで各類型でどのような場合にどの程度の寄与分が認められるかの具体例を解説します。
寄与分の算定方式は法律で定まっていません。様々な算定方式を主張して、最終的には裁判所の判断によります。どのように寄与分を算定するかは弁護士の腕の見せ所と言えるでしょう。
家業従事型の寄与分が認められるケース
被相続人の事業(農業・漁業・会社・医師・税理士事務所など)を相続人が手伝っていたときは、家業従事型の寄与分が認められる可能性があります。
「特別の寄与」が必要であるため、相続人が無償で手伝っていたか、どの程度継続して手伝っていたか、片手間の手伝いではなかったかなどが考慮されます。具体的には、相続人が被相続人の事業を手伝っていたのにほとんど給料を貰っておらず、約3~4年以上は継続して手伝っているようなとくには寄与分が認められやすいでしょう。
家業従事型の寄与については、以下のような算定方式が考えられます。
寄与分の金額=通常貰えるはずの賃金額×寄与期間-被相続人からの生活費相当額
金銭等出資型の寄与分が認められるケース
被相続人に対して、相続人が金銭的援助をしていたようなときは寄与分が認められやすいと言えます。具体的には以下のような場合が考えられます。
- 被相続人名義の不動産を購入するときの頭金を負担した
- 相続人が自己の不動産を無償提供していた
- 被相続人の新築・リフォーム費用を援助していた
- 被相続人が経営する会社に資金援助をしていたなど
このような場合には、相続人が援助した財産や金銭に一定の裁量割合を乗じた金額が寄与分として認められます。
療養看護型の寄与分が認められるケース
相続人やその配偶者・子どもが被相続人の療養看護・介護を行ったようなときは、寄与分が認められる可能性があります。相続人などが被相続人の面倒をみたおかげで、本来必要であったはずの介護費用が節約できて遺産(相続財産)を維持・増加させたと考えられるからです。
しかし、老親の介護は介護保険導入により病院や地域でのサポートが受けやすくなってきたことから特別の寄与と判断されないこともあります。そのため療養看護型の寄与分が認められるためには、「特別の寄与」と言えるために、療養看護が無償で一定期間継続してされたかや、看護期間・内容や程度、要看護状態などを踏まえて通常の看護の程度を超えたかなどが判断されます。
実務上は、1年以上の期間療養看護を行っており、被相続人が要介護度2以上であるような場合には寄与分が認められやすいといえます。
療養看護型の寄与については、以下のような算定方式が考えられます。
寄与分の金額=介護報酬基準などの報酬相当額×介護日数×一定の裁量割合
実務上は一日当たりの介護費用として1万2000円~1万3000円程度と算定された例があります。また、一定の裁量割合としては50%~80%の間で調整されており、おおむね70%程度が平均的数値と言われています。裁判例においては、たとえば大阪家裁平成19年2月26日審決では、療養介護型の寄与分として750万円が認められています。
扶養型の寄与分が認められるケース
扶養型の寄与分とは、相続人のうち一人が被相続人の生活を長年見てきたような場合に認められるものです。扶養型の寄与分は、療養看護型の寄与分と異なり「被相続人の病気」を必要としません。また、親兄弟や夫婦であれば相互扶助や扶養の義務を負っているため、「特別の寄与」と認められるかは難しいところです。
そのため寄与分が認められるハードルが多少高いと言えるでしょう。
たとえば、大阪家裁昭和61年1月30日審決においては、被相続人を約18年間にわたって扶養し金銭的負担として少なくとも825万円としたう上で、寄与分として730万円を認めています。
財産管理型の寄与分が認められるケース
財産管理型の寄与分が認められるケースとしては、以下のようなケースが考えられます。
- 被相続人の賃貸不動産を管理して管理費用の支出を免れた
- 被相族人の不動産売却時に立退交渉や売却手続きを行った
- 被相続人の資産運用を行っていた
しかし、被相続人の資産運用については損失のリスクは負わずに、たまたま利益が出たときだけ寄与分を主張することは不公平と考えられるため一般的には認められにくいと言えるでしょう(大阪家裁平成19年2月26日審決など)。
他方で、被相続人の資産管理・資産売却を手伝っていたようなケースでは、相続人の寄与による遺産(相続財産)の維持・増加が明確であるため寄与分が認められやすいと言えます。たとえば、長崎家裁諫早支部昭和62年9月1日審決は、相続人が土地売却の立退交渉・家屋取壊し・売買契約締結などを行った事案において、不動産仲介手数料を考慮して300万円の寄与分を認めています。
寄与分を認めてもらうための流れ
遺産分割協議に置ける寄与分の主張
具体的にどのように寄与分を主張するかですが、まずは相続人間の遺産分割協議において寄与分を主張することになります。遺産分割については、民法で定められた割合(法定相続分)をベースとして、特別受益や寄与分を修正して具体的な相続分を定めます。
(参考)遺産分割の割合とは?遺産分割の割合を決める3つの方法や注意点を解説
(参考)特別受益とは何か?特別受益があるときの遺産分割の割合や遺留分の計算方法について相続法改正を踏まえて解説
遺産分割協議においては、相続人が納得すれば具体的相続分をどのように定めるかは自由です。そのため、遺産分割協議で、あなたの寄与分の主張に相続人全員が納得してくれれば、当該寄与分を前提として遺産分割を進めることができます。
寄与分を求める調停の申立て
しかし、他の相続人としては、あなたに「特別の寄与」があったことに合意してくれない場合があります。寄与分が認められると、あなたは数百万円もの寄与分を取得し他の相続人の取り分が減るため当たり前ではありません。
このような場合には、寄与分を求める調停を申し立てることになります。寄与分を主張するためには、遺産分割協議中か遺産分割調停かに関係なく、寄与分を求める調停の申立てをしないと裁判所は判断してくれません。
最終的には寄与分を求める審判+遺産分割の審判を行う
調停手続きはあくまで相続人の合意がないと成立しません。そのため、家庭裁判所における調停手続きでも寄与分に合意ができないときは審判手続きに移行します。審判手続きでは家庭裁判所が諸々の事情を踏まえて寄与分の金額を決めてくれます。
ただし、寄与分を求める調停の申立ては、それだけできますが、寄与分を求める審判は遺産分割の審判の申立てがないと却下されてしまいます。実務上は、相続人間で寄与分をいくらにするか揉めた場合、遺産分割調停・寄与分を求める調停を起こし、いずれも調停不成立であれば審判手続きに移行するのが自然な流れと言えます。
なお、遺産分割の進め方については下記記事も参考にしてください。
(参考)遺産分割の手続きで損をしないための進め方と知っておくべきポイント
寄与分を認めてもらうためのポイント
遺産分割協議や寄与分を求める調停・審判で寄与分を認めて貰うためにはいくつかのポイントがあります。
特別の寄与であることを具体的に主張する
寄与分は、通常期待される貢献を超えた「特別の寄与」が必要です。この観点から、単に「被相続人のために自分が頑張った」と主張するだけでは足りず、以下のような観点から「特別の寄与」だったことをアピールする必要があります。
- 無償性:見返りなく貢献していたこと
- 継続性:貢献の期間が一定期間続いていたこと
- 専従性:片手間ではなくかなりの負担があったこと
- 相続財産の維持・増加がどの程度あったか
- 単なる精神的なサポートに留まるものではなかったことなど
特別の寄与の証拠を用意する
また、事前に特別の寄与の証拠となる書類や記録を用意しておきましょう。寄与分を申し立てるには、被相続人の事業への労務の提供、療養介護・扶養、や財産の給付・管理などを行ってきたと、客観的に証明できる資料が必要です。
とくに家業従事型の寄与分や療養介護・扶養型の寄与分は一定期間の貢献がないと特別の寄与とは認められないため、いつからいつまで貢献したかの証拠も集められると良いでしょう。
具体的には、家業従事型の寄与分であればタイムカードや取引先と交わした契約書・領収書・メールなどが証拠となります。また、自営業でそれらがなければ、近隣住民や親戚の証言などが参考になるでしょう。
療養介護型・扶養型の寄与分であれば、診断書・カルテなどからいつから被相続人の療養看護が必要かを証明できます。また、介護の期間や時間を証明するために、被相続人・相続人の日記が参考になる場合があります。もし介護のために仕事を休むことがあれば、勤務先とのやり取りから長期間介護を行っていたことの証拠が見つかることもあるでしょう。
また、金銭出資型や財産管理型であれば、契約書・銀行口座の写し・カードの利用明細・手紙のやり取り、扶養型は仕送りの送金履歴が証拠となります。
寄与分が認められたときの遺産分割の注意点
遺産分割における寄与分を考慮した相続分の計算
寄与分が認められたケースでは、当該寄与分の金額に基づいて法定相続分を修正した具体的相続分に基づいて遺産分割を行います。
まず、相続開始時の遺産(相続財産)-寄与分の金額を相続財産とみなします(みなし相続財産)。そして、寄与分が認められた相続人についてはみなし相続財産×相続分+寄与分の金額が具体的な相続分になります。その他の相続人についてはみなし相続財産×相続分が具体的案相続分となります。
特別受益と寄与分のいずれもある場合の計算について
特別受益と寄与分のいずれもがあるときは、実務上は、相続開始時の相続財産+特別受益の金額-寄与分の金額で「みなし相続財産」として、そこの法定相続分を乗じて、特別受益を控除・寄与分を加算して具体的相続分を計算します(民法903条と904条の2の同時適用説)。
なお、特別受益と寄与分のいずれもが認められる相続人について、相続分を超える特別受益(超過特別受益)があるとしても、超過特別受益は寄与分から控除されません(東京高裁平成22年5月20日決定)。特別受益や寄与分を巡って、相続人間で揉めているときは、複雑な計算が必要となるため相続・遺産分割に強い弁護士に相談することをおすすめします。
特別受益については下記記事も参考にしてください。
(参考)特別受益とは何か?特別受益があるときの遺産分割の割合や遺留分の計算方法について相続法改正を踏まえて解説
遺留分侵害額請求をされたときに寄与分を主張できるか
寄与分がある相続人が遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)をされたときに、寄与分があることを主張できるかについては、実務上はできないとされています(東京高裁平成3年7月20日判決)。
そもそも、寄与分を定めるときは、遺留分も考慮しながら寄与分の金額を算定するとしています。たとえば、東京高裁平成3年12月24日判決は、寄与分を定めるにあたっては遺留分を侵害する結果となるかどうかについても考慮しなければならないとして、寄与分を7割とした原審の判断を否定しています。
特別寄与料制度:相続人以外の親族による寄与分の請求
相続法改正による特別寄与料制度が設立された趣旨
最後に、2019年相続法改正による新設された特別寄与料制度について少し紹介しましょう。この改正によって、相続人以外の親族にも、被相続人への介護や財産管理等の「特別の寄与」が認められれば、相続人に対して寄与分を請求できるようになりました(民法1050条)。
これまでは、相続人の配偶者が被相続人を介護していたようなケースでは、相続人の配偶者には権利がありませんでした。たとえば、妻が義理の親(夫の親)に対して献身的に介護をしてきた場合、夫の親が亡くなったときに妻は第三者であるため寄与分が主張できませんでした。
しかし、2019年7月1日以降に発生した相続に関しては、このような場合に妻が他の相続人に対して特別寄与料として遺産を受け取ることができるようになったのです。
特別寄与料が認められる要件
対象となるのは、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした被相続人の親族」です。
この親族とは、「6親等内の血族、3親等内の姻族」を指し、生物学的な血縁関係ではなく法律上の血縁関係をいいます。
つまり、認知されていない非嫡出子や内縁者(内縁の妻・夫)は該当しません。逆に、養親と養子とは法的な血縁関係に当たるため、養子は特別寄与者になれます。相続人以外の「親族」に限定されたのは、親族以外の寄与も認めると様々な主張をする人が出てきて混乱する可能性があるからです。
特別寄与料を請求するときの注意点
特別寄与料によって請求できるのはあくまで金銭のみであり、遺産分割協議に参加できるわけではありません。
また、特別寄与料の請求には期限があります。「特別寄与者が相続の開始および相続人を知ったときから6カ月」または「相続開始の時から1年以内」と定められており、短い期間です。特別寄与料を請求するつもりであれば、期限切れにならないよう早めに準備をしておきましょう。
期間内に特別寄与料を請求できなかったときは、遺産分割で相続人が寄与分を主張する余地はあります。たとえば、相続人の配偶者(妻)が被相続人(夫の親)を介護していたとき、相続人の配偶者(妻)が特別寄与料を請求できなくなっても、妻の貢献を夫の寄与と考えて夫が遺産分割で寄与分を主張できるかもしれません。このような場合には弁護士にご相談ください。
まとめ:寄与分は数百万円にもなり得る!しっかり主張しよう
被相続人のために長年貢献してきたときは寄与分が認められることがあります。この記事では寄与分が認められるケースや、どのように寄与分の金額が計算されるかなどを解説しました。
寄与分は数百万円程度認められるケースもあります。寄与分の有無で遺産分割の結果は大きく変わります。しっかり、寄与分を主張することが必要です。寄与分を請求するには、それを裏付ける資料や記録が必要です。
具体的な事情に応じて、どの程度の寄与分が請求できるかは異なります。もし、相続人同士の話し合いで不満があるときは、相続・遺産分割に強い弁護士に相談することをおすすめします。