相続財産調査とは、相続が発生したときに遺産(相続財産)として何があるかを調査するものです。
あなたのご両親等が亡くなったとき、亡くなった人(被相続人)の遺産(相続財産)を相続人(子どもなど)で分配することが相続です。
遺言書がない場合、どのような相続財産があるか分かりません。そのため相続財産の調査を行う必要があります。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
この記事のポイント
もし、あなたが初めて相続手続きを行うのであれば、「相続財産調査をどのように行うか分からない」、「専門家に依頼したいけれど、相続財産調査費用がどれくらいか不安だ」というお悩みを持っておられることだと思います。
この記事では、相続財産調査費用について解説します。
相続財産調査費用の目安は、相続問題を主に取り扱っている弁護士の情報をまとめております。また、相続財産調査の実例を踏まえて解説します。
相続財産は平均約2,114万円と言われています。もしかすると、あなたは相続財産を見落としているかもしれません。損をしないためにもこの記事を最後まで読むことをおすすめします。
相続財産調査とは
相続財産調査の必要性
相続財産調査とは、文字通り、遺産(相続財産)として何がどこにどれぐらいあるかを調査することです。
例えば、ご両親の相続であれば、あなたが亡くなったご両親と別居して長年経過していれば、ご両親がどのような相続財産を持っているか分からないため、相続財産調査が必要です。
とくに、亡くなったご両親と同居していた他の兄弟がいる場合、他の兄弟はご両親の相続財産を把握しているものの、すんなり相続財産を開示しない場合も多いです。
このような場合には遺産分割協議を行うために自分で相続財産を調査しなければなりません。
遺産分割の対象となる遺産(相続財産)は、相続開始時・遺産分割時に存在するものが対象とするのが実務上の取扱いです(遺産分割時説:東京家裁昭和44年2月24日審判参照)。
とくに預貯金の調査は難しい
相続財産には、大きく分けて、①不動産、②預貯金、③証券(株式、投資信託等)があります。各相続財産の調査方法やどのような点が問題になるかは別途解説します。
相続財産の中でも預貯金の調査はとくに難しいです。預貯金の相続財産調査を行うときは、預貯金残高のみならず取引履歴も確認する必要があるからです。
なぜなら、自分が知らないうちに、亡くなったご両親と同居していた他の兄弟等が預貯金を使い込む「預金の使い込み」の事案が数多く存在するからです。
しかし、相続財産調査には手間や時間がかかります。また、「預金の使い込み」のように適正な支出か否かといった法律及び事実の分析を行う必要があります。そのために弁護士に相続財産調査を依頼される方も多いです。
相続財産調査を行わないリスク
相続財産を調査しないと思わぬ損失を被ることがあります。
まず、相続人が複数いるときにスムーズに遺産分割ができないときです。他の相続人が遺産分割に協力的でないケースでは、他の相続人が相続財産を隠していたり、こっそり両親の預貯金などを使い込んでいるケースがあります。
もし相続財産を行わないと適切な遺産(相続財産)を貰えないリスクがあります。後述の通り、相続財産調査の費用は数十万円程度ですが、この費用を惜しんで本当は貰えるはずの数百万円、数千万円の相続財産を失うと大きな損失です。
また、相続財産調査を行うことで、債務(借金)というマイナスの相続財産が見つかることもあります。相続財産はプラスの財産だけでなく、マイナスの財産もあります。
もしマイナスの相続財産があると相続をすることで損をするリスクがるため、相続放棄や限定承認という手続きを相続開始を知った日から3か月以内にする必要があります。
亡くなった被相続人に借金がある可能性があるときは相続財産調査を行った方が良いでしょう。
子どもに相続財産を全て明らかにしているのは約13%程度であり、子どもに相続財産を一切明らかにしていない家庭も約半数あります。きちんと相続財産を調査しないと思わぬ見落としで損をする可能性があります。
相続財産調査の費用
相続財産調査を依頼するときの費用相場はどのぐらいでしょうか。
結論:相続財産調査費用は20~30万円程度が目安
結論から言うと、相続財産調査費用の目安は、20万円~30万円程度です。
なぜ、このように相続財産調査費用に幅があるかというと、相続財産調査と一口に言っても、事件毎に相続財産調査に要する手間暇は異なりますし、そのため相続財産調査に必要な実費等の額も異なるからです。
相続財産調査費用の内訳は弁護士費用と調査実費
相続財産調査の費用は、弁護士費用と事務処理(調査)に要した実費からなります。
弁護士費用は、「着手金と成功報酬」があると思っておられかもしれませんが、相続財産調査の場合は依頼時に1回だけ「手数料」を頂戴することになります。
「着手金と成功報酬」は勝ち負けのある事案についての弁護士費用であり、相続財産調査は手続を行うだけなので「手数料」という弁護士費用になります。
実費等の額については、戸籍等を取り寄せるための職務上請求の費用、登記情報を取得するための取得代金、名寄帳(ご両親の所有不動産の一覧表)や預貯金の取引履歴を取り寄せるための郵便代等になります。
実費等の額は、それぞれは数十円から数百円程度のものですが、相続財産調査のために必要な資料は膨大ですので、実費等の額だけで数万円程度になることもあります。
相続財産調査費用の落とし穴
相続財産調査の費用を検討するときは落とし穴にはまらないように注意して下さい。
一見すると安い相続財産調査費用と思ったら、最終的には相続財産調査費用が高くついたということも少なくありません。
相続財産調査の費用は、一括して弁護士費用何万円+実費という場合(例えば、アイシア法律事務所では、一律25万円+実費等の額としています。)以外に、(i)相続財産の金額に応じて数%という定め方や、(ii)各調査(不動産の調査、預金の調査)毎に細かく料金を設定している場合があります。
しかし、相続財産調査を行うまでは相続財産の金額が分からないため、意外と相続財産が多かった場合は相続財産の金額に応じて相続財産調査費用を定めていると相続財産調査費用が跳ね上がることがあります。
また、相続財産の調査項目によって細かく相続財産調査費用が設定されている場合、一見すると基本報酬は数万円程度で安く思えても、不動産の確認・預貯金の取引履歴の取り寄せ等で最後には数十万円の費用が発生することも少なくありません。
このような落とし穴にはまらないように、相続財産調査費用は慎重に検討されるべきだと思います。
なぜ相続財産調査の費用は分かりにくいのか
01 相続財産調査を行う弁護士は少ない
相続財産調査費用がなぜ分かりにくいかというと、相続財産調査のみを受任する弁護士が数少ないからです。
弁護士によっては相続財産調査のみを受任していないこともあります。
弁護士が遺産相続案件を受任するときは、遺産分割調停事件のように相続財産の分配を請求する事件として受任します。
もちろん、遺産分割調停事件を受任すれば相続財産の調査も行います。しかし、(i)相続財産調査のみを単体で受任し、それとは別に(ii)遺産分割調停事件や遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)事件を受任するというのは、従来は一般的ではありませんでした。
アイシア法律事務所では数年前から相続財産調査のメリットに着目し、まずは相続財産の調査のみで受任していました。最近では、少しずつ相続財産の調査を受任する弁護士も増えており実務的に定着しつつあるようです。
02 遺産相続問題に強い弁護士が相続財産調査のみを受任している
しかし、現時点では遺産相続問題に強い弁護士だけが相続財産調査のみで受任しています。
相続財産の調査は、費用が20万円~30万円程度と低額に抑えられる点でご依頼者様にメリットがあります。他方で、遺産相続問題に注力していない弁護士にとってはあまり旨みがないため積極的に受任することが難しいという事情があります。
03 相続財産調査の費用のみならお試しで依頼できる
しかし、ご依頼者様にとっては、そもそもどの程度の遺産(相続財産)があるか分からないと本格的に弁護士に依頼して良いか分かりません。
遺産(相続財産)がどこにどの程度あるかが分からないと、ご依頼者様として相続財産をどのぐらい請求するのかを決めることはできません。また、相続財産の分配で揉めていなくても、相続財産調査の方法に悩んでおられる方も多くいらっしゃいます。
そこで、遺産相続問題に強い弁護士は遺産分割調停や遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)といった具体的な案件を受任する前に、相続財産調査のみで受任するようになってきています。
ご依頼者様にとっては、相続財産調査の費用のみで弁護士にお試しで依頼できるのがメリットです。
相続財産調査を弁護士に依頼する3つのメリット
それでは、相続財産調査を弁護士に依頼するメリットはどのようなものでしょうか。
メリット①:弁護士の調査権限を利用できる
相続財産調査を一定程度ご自身で行うことも可能です。しかし、(i)いくつもの金融機関や法務局等の窓口に行かなければならない、(ii)提出書類に必要な被相続人や相続人の戸籍を集めなければならない等の手間があります。
弁護士に相続財産調査を依頼すれば、このような膨大な手間暇が必要となることはありません。また、弁護士は、他人の戸籍や住民票を取り寄せる職務上請求という調査権限を持っています。従って、他の相続人に関する資料が必要な場合は弁護士に依頼して調査を行わざるを得ません。
メリット②:各種相続手続をスムーズに行うことができる
相続財産調査の後には相続手続が必要となります。しかし、相続手続は意外と面倒くさいものです。
最も悩まれる点は、どの専門家に依頼をすれば良いかということです。例えば、相続税に関しては税理士に、相続登記に関しては司法書士にと色んな専門家にバラバラに頼むと、それぞれの意見が異なって大変です。
実は、弁護士は、訴訟や調停のように相続人同士が揉めた場合はもちろん、税理士のように税金を扱ったり、司法書士のように登記を扱ったりすることができる資格です。従って最初から弁護士に依頼しておけば、その後の相続手続をスムーズに進めることができます。
(弁護士法3条2項)
弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
(東京高裁平成7年11月29日判決)
弁護士は、弁護士法3条に基づき、登記申請代理業務を行うことができる
メリット③:相続財産の分配の方針が分かる
相続財産調査によって、どれぐらい相続財産があるか分かったら、次は相続財産をどのように分配するかを相続人同士で話し合う必要があります(これを遺産分割協議といいます。)。
しかし、相続財産の分配方法を決めるのは難しい問題です。
例えば、相続人が何分の1ずつ相続財産に権利を有しているのかを正しく理解しないといけません。また、他の相続人が生前にご両親から貰った財産をどう考えるか(特別受益の問題)や、あなたが長年ご両親の介護をしたことをどう考えるか(寄与分の問題)等の問題があります。
さらに、他の兄弟による相続財産の預貯金の使い込みが疑われる場合、相続財産の分配にあたってどの程度戻して貰えるかを検討しなければなりません。
弁護士は、遺産分割調停事件において、特別受益、寄与分や預金の使い込みについてどのような判断がなされるかを知っています。相続財産調査を弁護士に依頼すれば、相続財産調査の結果に基き、相続財産の分配方針のアドバイスも貰えます。
専門家毎の相続財産調査の費用相場について
いざ相続財産調査を依頼しようとするときは、どの専門家に頼むべきか迷われるかもしれません。相続を扱う専門家としては、弁護士・税理士・司法書士・行政書士・金融機関等もいるからです。
専門家による扱う相続財産の違い
弁護士 | 税理士・司法書士・行政書士業務のいずれも資格としては扱える相続の専門家です。弁護士にしか扱えない案件として「紛争性ある案件」があります。 |
税理士 | 一定程度の相続財産があるときに相続税の申告を行います。 |
司法書士 | 相続財産に不動産があるときに登記を行います。相続放棄や限定承認を行うこともあります。 |
行政書士 | 遺産分割協議書の作成、相続放棄、限定承認等を行います。 |
金融機関 | 富裕層等をターゲットとして相続案件に関与しています。 |
相続財産の調査を依頼するときは、結論から言えば弁護士に相談することをおすすめします。
どのような相続財産があるか分からないときは、税理士や司法書士が扱うような遺産相続案件か不明だからです。また、相続人間で揉めているときは、紛争性ある案件ということで行政書士は扱えません(非弁行為という違法行為に加担するおそれがあります。)。また金融機関は手数料が高額です。
弁護士は、税理士・司法書士・行政書士のいずれの業務も扱える資格だと言うこともありますが、現実には各専門家と協力しています。まずは弁護士に相談して、相続財産調査の結果を踏まえて、適切な専門家に繋いで貰うのが良いでしょう。
専門家によって相続財産調査の費用相場は異なる?
相続財産調査の費用相場ですが、金融機関以外の専門家であればさほど違いはないと言って良いでしょう。専門家毎の費用相場の違いがあるというより、同じ専門家同士でも費用体系による相続財産調査の費用の違いが大きいでしょう。
一般的には弁護士は高額で、行政書士は低額な傾向にあると言われます。しかし、相続財産調査の費用に限ってハッキリ言うと、良心的な弁護士よりも悪徳な行政書士の方が費用が高額であることがあり得ます。
専門家毎に費用相場が違うというよりは、相続財産調査の費用をきちんと比較検討して良心的な専門家を選ぶようにしましょう。
まとめ
この記事で相続財産調査を依頼した場合の費用やメリットについて解説しました。最後に重要な点をまとめておきます。
- 相続財産調査の費用の目安は20~30万円
- 費用の算定方法によって安く見えるが意外と高い場合に注意
- 相続財産の調査後を見すえた依頼をする
- どの専門家に相談するか迷ったらまずは弁護士に相談する
多くの方が相続問題に直面することは初めてだと思います。だからこそ、自分で調査するのか弁護士に依頼するのか、その場合の費用はどれくらいかを慎重にしっかりと検討した上で、相続財産の調査を行っていただければと思います。
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