家族信託の手続きや流れに不安はありませんか?
家族信託のメリット・デメリットを知って利用したいと思ったら、次に気になるのが家族信託の手続きです。家族信託を利用したいが、具体的な家族信託手続きが分からない。家族信託の流れや必要書類、自分で進めることはできるかを知りたいという悩みを抱えていませんか。
家族信託は認知症対策・相続対策のために着目されています。近年、家族信託手続きの流れについて、どのように家族信託手続きを進めれば良いかの質問が増加しています。
そこで、この記事では家族信託手続きについて、流れや進め方、どのような書類が必要になるか、自分で手続きはできないか等の疑問にお答えします。
家族信託に詳しい弁護士が実務経験を踏まえて丁寧に解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
家族信託手続きの流れ
家族信託の手続きの流れは大きく分けて、どのような家族信託を決めて具体化する手続き、家族信託の契約書を作成する手続き、家族信託契約に基づいて信託財産の名義変更を手続きに大きく分けられます。
この家族信託手続きの流れは細かく説明すると以下の通りになります。
- 本当に家族信託を行うかの検討手続き
- 家族信託内容を決めるコンサルティング手続き
- 信託契約書の作成手続き
- 信託契約書を公正証書化の手続き
- 預貯金を受託者の口座に送金手続き
- 不動産について登記手続き
- 受託者による信託財産の管理手続き
家族信託の手続きの流れに沿って、具体的な手続きやどのような書類が必要になるかを解説します。
STEP 1:本当に家族信託を行うかを考える
あなたが家族信託を行う目的について
家族信託手続きは、そもそも家族信託を行う目的は何かを考えるところからスタートします。家族信託は相続対策・認知症対策に有効と言われていますが、柔軟な制度設計が可能であるため、手続きを進める前にきちんと目的を決めることが重要です。
あなたが家族信託を利用する目的は以下のどれかに当てはまるでしょうか。
- 認知症に備えて家族・親族に財産管理を任せたい
- 遺産相続を巡って揉めてほしくない
- 所有不動産の活用方法を明確化したい
- 自分が経営している会社のことが心配
- 将来が心配な妻や子どものために対策をしたい
家族信託はオーダーメイドで設計ができます。次の手続きでは、あなたが家族信託を利用する目的に合わせて家族信託の内容を設計します。目的次第で家族信託手続きも異なります。何のために家族信託をするかという手続きの出発点を誤ると、その後の家族信託手続きも無意味になりますのでご注意下さい。
家族信託のメリット・デメリットや費用を知る
家族信託の目的を考えたら、次に家族信託のメリット・デメリットや費用を知る必要があります。あなたの目的は本当に家族信託でないと解決ができないのかを手続きをする前に考えておく必要があります。
相続対策・認知症対策には家族信託以外の制度利用も考えられます。そのため、他制度と比較して家族信託が適切なのかを検討することをおすすめします。
家族信託は、あなたの財産管理を信頼できる家族・親族に任せる手続きです。家族信託のメリットは、遺言書や成年後見制度に比べて柔軟な設計可能なことです。他方で、家族信託にも限界がありますし、節税対策はしづらいなどのデメリットもあります。
他方で、認知症対策を考えたときに、家族信託は信託設定時に費用が生じるものの、後見制度に比べて継続的に費用が生じないという特徴もあります。家族信託の手続きを進める前に一度家族信託に強い専門家に相談して、家族信託のメリット・デメリットや費用を知ることをおすすめします。
STEP 2:家族信託の内容を決めるための手続き
専門家による家族信託設計のコンサルティング手続き
家族信託を行うことを決めたら、次の手続きとして具体的に家族信託の内容を決めていく必要があります。家族信託に強い専門家によるコンサルティングを受けながら、家族信託の内容設計をしていきます。
自分で家族信託の制度設計をすることはできる?
専門家に依頼するとコンサルティング料がかかります。そのため自分で家族信託手続きを進めることを考える方もおられます。しかし、コンサルティングは家族信託の設計手続きだけでなく信託契約書作成の準備手続きも含まれています。専門家に依頼せずに自分で信託契約書を作る自信がなければ専門家にコンサルティングを依頼する方が良いでしょう。
コンサルティング手続きで決めるべき家族信託の大枠
家族信託のコンサルティング手続きでは具体的には以下の家族信託内容を決めることになります。
01 家族信託の当事者
家族信託の当事者とは誰があなたの財産を管理するのか(受託者)、誰があなたの財産について権利を有するのか(受益者)です。あなたが生きている間はあなた自身が受益者となり、あなたが死亡した後は相続人の誰かを受益者とするといったことが可能です。
02 家族信託財産の内容
家族信託の対象とする財産を決定します。例えば、現金については自分の財産としておき、不動産のみを財産管理を任せる親族・家族に家族信託するといったことも可能です。
03 家族信託の期間
とくに重要なのが家族信託をいつから始めるかです。今すぐに家族信託を始めるのか、自分が認知症になったら家族信託を始めるのかを選択することができます。
04 財産管理の方針
家族信託は、自分の財産管理を信頼できる家族・親族に任せることです。ただし、財産管理の方針は予め決めておくことができます。例えば、不動産の管理を任せる場合、不動産は賃貸するだけなのか、場合によっては売却しても良いのかを選択することができます。
05 信託財産の分配について
家族信託は相続対策にも使えます。信託財産の受益権を自分の死後に誰に取得させるかを決めることで信託財産の分配方法を決めることができます。家族・親族の関係によって、この点は様々な決定ができますが、自分の認知症発症・死後に問題になる点であり変更がきかないので慎重に検討する必要があります。
06 家族信託の課税関係
家族信託を設定する場合、課税関係についても検討しなければなりません。当事者をどのように設定するかで課税関係も変わりますので、確認が必要です。
家族信託のメリットは柔軟な制度設計ができることです。限界もありますが家族信託に強い弁護士の知恵を借りれば想像以上に多くのことを自分の思い通りに実現できます。ここで記載したものは大枠にすぎず、家族信託のコンサルティング手続きでは細かい要望をお伺いして適切な解決策を提案しますのでご安心ください。
STEP 3:信託契約書の作成手続き
複雑な家族信託の設計を契約書にする手続き
遺言書を利用する場合は遺言書を作成しますし、成年後見制度を利用する場合は家庭裁判所へ申立てをすることになります。これと同様に家族信託では家族信託契約書作成手続きが必要です。
家族信託契約書をしっかり作成することで、あなたの財産管理を安心して任せることができます。家族信託契約書は、日常的に使用する契約類型ではないため、あなたがご自身で作成するのは現実的ではありません。そのため、家族信託契約書の作成手続きは専門家に依頼することになります。
契約書のキャッチボール
家族信託契約書作成は、専門家が行います。しかし、家族信託契約書の作成手続きにおいてはご依頼者様の協力が不可欠です。家族信託契約書は自由な設計が可能であるため、家族信託契約書作成中にあなたに内容を決定して貰うべき事項が生じることがあるからです。
専門家が作成した家族信託契約書をあなたに確認していただき、あなたのコメントを踏まえて専門家が再度家族信託契約書を作成する。このように契約書をキャッチボールしながら、より良い家族信託契約書にしていくイメージです。
家族信託契約書の作成手続きをスムーズに進めるために家族信託に強い弁護士は様々な工夫をしています。しかし、ご依頼者様のご協力が得られないと、家族信託に強い弁護士でも手続きを中止せざるを得ないときもあるのでご注意ください。
STEP 4:公正証書の作成手続き
公正証書とは
家族信託契約書を作成したら、公正証書にする手続きを行うかを決めます。公正証書とは、公証役場において公証人が作成する公文書です。重要な契約書等においては公正証書にする手続きを行います。
家族信託契約を公正証書にするメリットには次のようなものがあります。基本的には家族信託契約を公正証書にすることをおすすめします。
家族信託契約の公正証書手続きのメリット
- 公証人が確認するのでトラブルになりにくい
- 信託契約書をもし紛失しても再発行できる
- 信託口口座を作るときに公正証書が必要な場合がある
家族信託と遺言書との手続きの違い
公正証書遺言という言葉を耳にされたことがあるかもしれません。遺言書の場合は公正証書にする手続きを行うことを強く勧めております。これは、遺言書は、形式が厳格に定められているため、自分で遺言書を作っただけだと無効になるリスクがあるからです。公正証書遺言だと争いになるリスクが格段に減ります。
これに対し家族信託契約書は公正証書手続きを行うことで形式面での有効性が変わるわけではりません。また、契約の当事者である委託者・受託者は納得して信託契約を締結していることから当事者間でのトラブルは少ないでしょう。
しかし、家族信託はとくに信頼できる家族・親族に財産管理を委ねるものです。受託者に選ばれなかった相続人が、あなたが認知症になってから家族信託契約が締結されたのではないか疑いを持つことがあります。この点で客観的・中立的な公証人が契約に立ち会う公正証書手続きを行うメリットはあると言えるでしょう。
信託契約書の保管について
また、家族信託の公正証書手続きのポイントとして保管の問題もあります。家族信託は、あなたに何かあった場合に備えるものですが、あなたが家族信託契約書を保管していると、家族信託契約書の保管場所を知っているあなたに何かあった場合に家族信託契約書がどこにあるか分からないことがあり得ます。
この点、信託契約書の公正証書手続きを行えば、公証役場に信託契約書が保管されます。もし、家族信託作成後も専門家に継続的にサポートを任せる場合はとくに公正証書にする必要はありません。他方で、家族信託作成後はあなた自身が手続きをされる場合、念のため家族信託契約書を公正証書にする手続きを行うべきでしょう。
公正証書手続きの必要書類
- 委託者・受託者の実印
- 委託者・受託者の印鑑証明書
- 信託財産に関する資料(登記簿謄本、固定資産税評価証明書等)
- 戸籍謄本など
STEP 5:信託財産(預貯金)の送金手続き
信託契約を締結したら、信託財産に関する手続きを行います。家族信託は、自己の財産を信頼できる家族・親族に移転させるものですので、そのための手続きが必要になるのです。
信託口座に預貯金を移す
信託財産になる預貯金については、受託者(信頼できる家族・親族)が開設した信託口座に移すことになります。受託者は、自分の財産と信託財産を分別管理する義務があります。そのため、信託財産を管理するための口座を別途開設する必要があります。
信託契約には倒産隔離機能があります。簡単に言えば委託者・受託者が倒産しても信託財産には影響を受けません。しかし、受託者が自分の口座で信託財産である預貯金を保管していると、受託者の債権者から差押えをされるリスクがあります。信託口座で管理していないと倒産隔離機能が無意味になるのでご注意ください。
信託口座の開設手続き
信託口座とは、「委託者A受託者B信託口」、「~信託受託者B」、「家族信託口~受託者B」などのように預金口座が信託財産であることが明示されている口座です。信託財産である預貯金は信託口座で保管するのが原則ですが、家族信託に慣れていない金融機関だと信託口座の開設手続きを受けて貰えないことがあります。
信託口座の開設手続きは、対応できる金融機関も徐々に増えています。各金融機関の支店に問い合わせるか、家族信託に強い専門家に最新情報を確認することをおすすめします。
預金口座が信託財産でることを明示しており倒産隔離機能があるものが信託口座です。しかし、信託口座に対応していない金融機関もあります。そのような場合は、信託財産の管理用に受託者名義の預金口座を新たに開設して預貯金を管理することがあります。これを信託専用口座といいます。
信託口座の開設に必要な書類
信託口座の開設手続きには以下のような書類が必要になります。
信託口座開設の必要書類
- 本人確認書類
- 公正証書による家族信託契約書
- 届出印
なお、必要書類ではないのですが、事実上、信託口座を開設するために以下のような要件が必要となるときがあります。この点は、事前に専門家と相談して対応を協議しておきましょう。
- 信託契約書を公正証書で作成しなければならない
- 専門家により作成された信託契約書でなければならない
- 一定金額の預貯金額が必要(3000万円以上など)
- 信託後見人・受益者代理人が定められている必要がある
- 受託者は1名であり、後継受託者の定めがある
- 委託者の家族が同意している必要がある
家族信託が注目されだした2015年~2016年頃には信託口座の開設手続きに対応している国内の金融機関はなく、海外のプライベートバンクなどの一部が対応していたようです。しかし、近年では信託口座の開設手続きが浸透し、開設の要件なども明らかになりつつあります。
STEP 6:信託財産(不動産)の登記申請手続き
信託登記とは
信託財産に不動産が含まれる場合、当該不動産に家族信託が設定されたことを登記する必要があります。この登記が信託登記です。
信託登記手続きを行うメリット
家族信託は、あなたの財産の所有権を受託者(信頼できる家族・親族)に一旦移転した上で財産管理を任せるものです。しかし、受託者である家族・親族はあなたの財産管理を任せられただけであり、例えば、受託者である家族・親族の債権者が信託財産に強制執行することはできません。
親族・家族が、信託財産でる不動産の所有権の移転を受けたこと、及び当該不動産は信託財産であるため受託者の債権者は信託財産に強制執行できないことを第三者に対して示すことが信託登記手続きを行うメリットです。
信託登記手続きを自分でするのは難しいでしょう。信託登記は一般的な登記手続きと異なるものであるため、原則として家族信託に強い司法書士に依頼することになります。
信託登記手続きに必要な書類
信託登記手続きの必要書類
- 委託者の実印
- 委託者の印鑑証明書
- 受託者の認印
- 受託者の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 権利証(投機識別情報通知書)
STEP 7:受託者による財産管理手続き
信託契約を締結し、信託財産を移転する手続きを終えれば家族信託の準備は完了です。家族信託契約書の定めに従って、受託者による信託財産の管理手続きが始まります。
信託財産の分別管理
家族信託は、受託者(信頼できる家族・親族)が信託財産を管理しますが、あくまで受益者(あなた)のために財産管理を行います。信託財産は受託者のものではないため、受託者には信託財産の分別管理が必要です。
家族信託の運用やメンテナンスについて
家族信託は柔軟な設計ができますが、運用開始後に事情が変わることがあります。そのため、家族信託契約書の修正・変更等のメンテナンス手続きが必要となることがあります。
財産管理を任せられた家族・信託は、成年後見人ほどではないものの、信託財産の管理について判断に迷うことがあります。家族信託契約書に運用方法を定めていても、運用時に契約書を理解・解釈に迷うことがあるかもしれません。
そのため運用手続きにおいて継続的に家族信託に強い専門家のサポートを受ける方もおられます。
家族信託手続きは家族信託の設定・財産管理の開始によって終わるものではありません。家族信託は、開始するまでよりも、開始してからの方が長く続きます。その間、信託財産が上手く管理できるように家族信託手続きを続ける必要があります。
まとめ:家族信託手続きの流れを把握する
この記事では家族信託の手続きや必要書類を詳しく解説しました。最後に家族信託の手続きの各STEPをまとめておきます。
- STEP①:本当に家族信託を行うかを考える
- STEP②:家族信託の内容を決めるための手続き
- STEP③:信託契約書の作成手続き
- STEP④:公正証書の作成手続き
- STEP⑤:信託財産(預貯金)の送金手続き
- STEP⑥:信託財産(不動産)の登記申請手続き
- STEP⑦:受託者による財産管理手続き
家族信託の手続きを知っていただくことで、家族信託を利用する具体的なイメージを持っていただけたのではないでしょうか?
家族信託は、相続対策や認知症対策のために、遺言書や成年後見制度に比べて使い勝手の良い制度です。あなたも是非家族信託の活用をご検討いただければと思います。
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