遺産分割調停には大まかな流れがあります。この記事では遺産分割調停の流れや、家庭裁判所でどのようなやり取りをして手続きが進んでいくのかを解説します。
遺産分割調停は、遺産分割協議がまとまらないときに家庭裁判所で行う手続きです。しかし、遺産分割調停と言われても具体的なイメージが湧かないかもしれません。裁判所に対して怖いイメージを持っておられるかもしれません。遺産分割調停をスムーズに行うためには調停手続の流れを知っておくことが重要です。
そこで、この記事では、弁護士が具体例を交えながら、遺産分割調停の流れについて分かりやすくイメージできるように解説します。
2009年 京都大学法学部卒業
2011年 京都大学法科大学院修了
2011年 司法試験合格
2012年~2016年 森・濱田松本法律事務所所属
2016年~ アイシア法律事務所開業
遺産分割協議から遺産分割調停への流れ
遺産分割調停はいつ始まるか
遺産分割調停は、遺産を相続する権利を持つ相続人のうち、遺産分割協議の内容に不満を持つ相続人が申立てを行うことでスタートします。つまり、遺産分割協議が終わった段階で遺産分割調停に移行します。
遺産分割協議から遺産分割調停への流れについては、とくに決まりはありません。しかし、遺産分割がされないまま放置されると様々な問題があります。遺産分割協議が揉めた場合は速やかに遺産分割調停の申立てを行う流れが望ましいと言えます。
(参考)遺産分割協議しない問題点やリスクについて弁護士が具体例を交えて解説
遺産分割調停の流れは申立てで開始する
遺産分割調停の流れで出発点になるのは、遺産分割調停の申立てです。遺産分割調停の申立ては相続人なら誰でもできますが、有利に遺産分割調停を進めたいなら、積極的に自分が申立てを行うことをおすすめします。
家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てた場合、すぐに調停の期日が決定され、調停を行う相手方の相続人に対して裁判所への出頭が命じられます。遺産分割調停手続きでは、相手方の相続人と直接話し合うことはなく、一般市民から選ばれる調停委員の仲介を得て双方の意見が伝えられます。
遺産分割調停は一度きりで終わるのではなく、何回か期日を重ねて双方が合意するまで繰り返されるのが基本的な流れとなります。
遺産分割調停が終了する場合の流れ
遺産分割調停を行って全員が納得するような形で合意できれば調停は成立という形でまとめられます。遺産分割調停が成立した場合の流れとしては、調停調書が作成されます。
調停調書は原則として判決と同じ強力な拘束力を持つため、調停調書に記載された決定事項を覆すことはできません。
これに対し、度重なる調停にもかかわらず、双方の意見の一致を見なかった場合は、調停は不成立となります。遺産分割調停から遺産分割審判に移行し、遺産相続問題の解決は裁判所に委ねられることになります。ここまでが、基本的な遺産分割調停の流れです。
家庭裁判所における遺産分割調停期日の流れ
調停委員と交代で話し合う
遺産分割調停でどんなやりとりをするかに関しては、まず当事者同士が調停の場で直接やりとりをすることは基本的にありません。家庭裁判所における遺産分割調停の流れとしては、自分と相手方が交代で調停委員と話し合うことになります。
裁判所に出頭した当事者はそれぞれ別の待合室で待機し、時間になったら交互に部屋に呼ばれて、調停委員に対して自分の意見を伝えるという流れです。意見を伝えたら、また待合室に戻され、相手方が部屋に呼ばれて調停委員から自分の意見が伝わるという仕組みです。
遺産分割調停でスムーズな話し合いができる理由
相続人が直接話し合いをする遺産分割協議では、どうしても感情的になってしまいます。しかし、遺産分割調停は第三者である調停委員が仲介する形で行われるため、比較的和やかな雰囲気の中で進められる場合がほとんどだとされています。
遺産分割調停は裁判所で行われる手続きではありますが、裁判所が一方的に判断する裁判ではありません。そのため、相手を納得させることもできれば、逆に相手から説得させられてしまうケースもあります。ただ、あくまで話し合いの場であるため、結論を強制的にのまされることはありません。調停中は当事者同士が会うことはありませんが、初回と最終回だけは当事者全員に内容を説明する目的で顔を合わせる場合もあります。
1回当たりの遺産分割調停期日にかかる時間
遺産分割調停期日は平日昼間に開催されます。概ね一回当たり2時間程度は時間がかかると考えておいてください。
もっとも、自分と相手が交代で調停委員と話し合うため、遺産分割調停の期日においてずっと調停委員と話し合うわけではありません。相手方が調停委員と話し合っている間は待合室で待っている時間もあります。
遺産分割調停の流れによっては、かなりの時間待たされる場合もあるため、待合室で時間を潰すための本等を持っていくことも考えられます。
遺産分割調停の流れ全体にかかる期間
遺産分割調停を最初から最後まで行うためにかかる期間は、それぞれのケースでかなり相違があるといえます。半年以内に成立することもあれば、3年たっても意見が収束せず、調停を繰り返しているというケースも珍しくありません。
司法統計によれば、調停期日の回数としては約6~10回程度が一番多いです。遺産分割調停は一般的に申立てから1~2か月後に最初の調停の機会が設けられます。その後は1か月に1回程度のペースで話し合いが進められます。
司法統計においても、約1/3が6か月以内に終了し、約2/3が1年以内に終了するとされています。また、約90%程度は2年以内に遺産分割調停は終了しています。
遺産分割調停における必要書類
遺産分割分割調停の申立書
遺産分割調停を提起するには、まず申立書を作成しなければなりません。申立書の作成自体は、裁判所でも記載例が示されています。しかし、調停委員が最初に目にするのは申立書であるため、遺産分割調停の流れを自分に有利なように運ぼうとするときは遺産分割調停の申立書を工夫する必要があります。
申立書に添付するべき書類について
また、遺産分割調停の申立書には様々な書類を添付する必要があります。
遺産分割調停の必要書類は、まず被相続人の戸籍謄本です。被相続人の出生から死亡時まで、すべての戸籍謄本を準備する必要があります。被相続人の戸籍謄本は、遺産を相続する権利を有する人を特定するためになくてはならない書類です。
次いで、相続人の戸籍謄本も必要書類のひとつです。相続人の戸籍謄本は、遺産を相続する権利を有する全員分をそろえる必要があります。
相続人全員の住民票または戸籍の附票も遺産分割調停の必要書類です。住民票は現在の居住地の役所から取得できます。戸籍の附票の場合は、現在の居住地ではなく、本籍地の市区町村で保管されているので、取得先を間違えないようにしましょう。
また、遺産分割調停のためには、遺産(相続財産)を把握しておかなければなりません。そのため、「固定資産税評価証明書」や「不動産登記説明書」「預金残高の写しや残高証明書」といった遺産(相続財産)を証明するための書類も必要です。
遺産分割調停の流れについてよくある質問
遺産分割調停を有利な流れにするためのコツ
遺産分割調停は相続人同士の話し合いですが、裁判所において調停委員を介して行います。遺産分割調停の流れを主導するのは調停委員であるため、自分に有利な流れにするためには調停委員を味方につける必要があります。
調停委員は段階的進行モデルを参考にしつつ、どのように遺産分割調停を進めるかを考えています。このような遺産分割調停の進め方を把握したうえで、調停委員を味方につけるポイントを考えることが、有利な流れにするためのコツです。詳しくは下記記事を参考にしてください。
(参考)遺産分割調停の有利な進め方:調停委員を味方につけるためのコツや段階的進行モデルを弁護士が解説
遺産分割調停にはどんな服装で行くべきか
また、遺産分割調停にはどんな服装で行くべきかについても、よくある質問です。
この点ですが、遺産分割調停は裁判所という厳粛な場にふさわしい常識的な服装で参加したほうが良いということです。遺産分割調停の服装について決まりはありません。しかし、遺産分割調停は話し合いのための場です。実際会うことはありませんが、そこには相手方の当事者もいれば、仲介してくれる調停委員もいます。そして、話し合いである以上、自分自身が周りに与える印象によって、調停の行末が左右されることも当然あるのです。
とくに遺産分割調停の流れを有利にするためには、調停委員に対して自分の印象を良くしておくことは決して損にはなりません。そのため、遺産分割調停には、なるべく清潔感のある、フォーマルな服装で臨んだほうが無難です。仕事の合間に参加する場合も、なるべく調停に行くための服装に着替えてから向かったほうが良いでしょう。また、服装だけではなく、態度や言動も心証に影響を与えます。調停委員に挨拶をしたり、入室時にノックをしたりなども、しっかり注意して調停に臨みましょう。
遺産分割調停から遺産分割審判への流れ
もし遺産分割調停が不成立になった場合は遺産分割審判に移行します。最後に遺産分割調停から遺産分割審判への流れについても解説します。
遺産分割審判とは
遺産分割審判は、裁判所が遺産分割を決定する手続きです。遺産分割審判は、当事者の主張や証拠関係に基づいて裁判所が遺産分割のやり方を決めてしまいます。
相続人全員が納得できないような結論であっても、遺産分割が決まってしまう点が遺産分割協議や遺産分割調停と異なります。つまり、遺産分割審判をうまく対応しないと、大きな損をするリスクもあります。
遺産分割調停の不成立から遺産分割審判の申立ての流れ
遺産分割審判は、相続人の合意が得られる遺産分割調停が不成立になった場合に移行します。遺産分割調停が不成立になった場合には、遺産分割審判の申立ては必要ありません。
遺産分割審判の申立てや記録については遺産分割調停からの流れを引継ぐことになります。
遺産分割審判の初回期日が決まる流れ
遺産分割審判の初回期日は、まずは遺産分割調停の不成立が確認されたときに一緒に日程調整を決める流れになることが多いです。もし、当日に日程調整ができない場合は、改めて日程調整のうえで遺産分割審判の初回期日を決める流れになります。
遺産分割審判の期日の流れ
遺産分割審判期日においては、裁判官が当事者から提出された書面や資料を確認して進むことになります。遺産分割協議や遺産分割調停はあくまで当事者同士の話し合いですが、遺産分割審判は裁判官が審理するものです。裁判官が問題点だと考える流れに沿って審理が行われます。
遺産分割審判の期日は一回だけでなく、裁判官が主張を整理したうえで追加の書面・資料を提出することをくり返します。裁判官が事実関係や法律関係から重要なポイントと考える点を見抜いて期日の準備をする必要があります。
遺産分割審判の決定
審理をくり返して裁判官が遺産分割のやり方を決めることができると判断したときには、遺産分割審判が終結します。遺産分割審判の終結から1~2か月程度を目途に審判日が決められます。遺産分割の審判書において、遺産分割のやり方は判断の理由が記載されています。遺産分割審判の決定により、遺産分割が最終的に解決する流れとなります。
まとめ:遺産分割調停の流れを押さえて有利に進めよう
この記事では遺産分割調停の流れについて以下のような点を中心に解説しました。
- 遺産分割協議から遺産分割調停への流れ
- 遺産分割調停期日の流れ
- 遺産分割調停にかかる回数・期間
- 遺産分割調停から遺産分割審判への流れ
遺産分割調停は、裁判所において調停委員を介して行われる相続人同士の話し合いです。しかし、遺産分割調停の流れは調停委員が誘導するため、調停委員を味方にすることが遺産分割調停を有利には運ぶためのコツです。
また、遺産分割調停が不成立になった場合は、そのまま遺産分割審判へ移行する流れとなります。遺産分割審判は裁判官が遺産分割を決定しますが、遺産分割調停の流れが引き継がれます。遺産分割調停は話し合いの手続きと言っても、予めしっかり準備をしておくことをおすすめします。
遺産分割調停を有利に進めるための進め方については下記記事も参考にしてください。
(参考)遺産分割調停の有利な進め方:調停委員を味方につけるためのコツや段階的進行モデルを弁護士が解説
遺産分割で損をしないためには、遺産分割調停の流れをしっかりと自分に有利なものにするようにしましょう。この記事が皆様の参考になればと思います。